治療

2/2
前へ
/2ページ
次へ
一連の事件を起こした彼の犯行動機は、 幼少期のトラウマによるものだった。 かつてはそういったトラウマを改善することは難しく 再犯を繰り返すか、無期限の懲役刑にされるかのどちらかだった。 数年前から記憶を消すことができるようになり トラウマを消すことにも成功していた。 もちろん日本では人道的に反するとして実行されていないが、この国ではそれが実行されていた。 彼は、治療として、幼少期に受けたトラウマを消した。 幼少期に父親から受けたDV、その傷から受けた学校でのいじめ それらは、決して彼の犯行を正当化するものではないが、 その犯行の罪自体は裁かれ償った。 将来、同様の犯行を繰り返さないために、 彼は幼少期のトラウマを、自分の過去の思い出とともに捨てた。 通常は、原因となるトラウマを失った人間は、何か喪失感を感じながらも犯行を繰り返しはしない。 だが、彼は違った。 彼は、治療を行ってからも、犯行を繰り返した。 逮捕後、診断の結果、彼のこれまでの犯行の記憶が一種の快楽となって犯行を繰り返させていることが判明した。 彼は、治療として犯行時の記憶を消された。 これで犯行が行われることはないだろうと思われていたが 逮捕されて刑務所に囚われていた記憶しかない彼にとって 安住の地は、刑務所しかなく彼は、そこに戻るためまたも犯行を重ねた。 彼は、またも治療として記憶を消された。 全ての記憶を捨てた彼がどうなるかは私にもわからない。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加