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小さな呟き声を聞き取る他所で、ビッと腰に通知が届く。ポケットから零れ出そうなスマホに手をやり、押し込んだ人差し指の先に何かが触れた。
「おいしく作れるようなったら食べてくれる?」
「まずくても食うけど」
触れたら逃げた何かを追ってつまみ、ポケットの中で形を確かめる。
「どんな味付けが好き?薄め?しょっぱめ?」
「…適当」
「適量?」
「目分」
「分かんないよ、私の目じゃ」
「横で言うし」
「……そういう言い方よくないと思う」
「……」
「深読みされると思う」
「……」
「綾瀬さん」
横を見る。少し遅れてこっちを向く横顔が、やがてほとんど正面になる。
「私と…っスタンプラリーの続きする?」
午前中に巡った文化部ゾーンの、D組劇の開演前に寄れなかった二か所に赴いた。
階層を下りつつ東へ移って教室に戻るコースが固まり、音楽室をクリアした後、ラストの図書室に向かった。
食後の奴が一気に再稼働したのか、自由時間が残り少ないからか、後回しにされがちなエリアのためか、妙に混んでいる。異常に混んでいるから、バックパックを背負っている上でかくて邪魔な綾瀬は戸口の外に佇み、勇ましく二人分のスタンプをもらいに行った二ノ宮を待っている。
「あーやせくん」
色んな奴に遭遇する日だ。
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