第1話 もてあそばれる事、山のごとし

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柳町(やなぎまち)君!! また()()を払う前に()()()を払ったの!?」 「払ってないです!! 大丈夫です!! その辺はちゃんとしてますから!!」 「アンタの生活なんて犬も食わないんだから、早く次の人を呼んでちょうだい!」 「わ……わかりました」  京子先生から話を振ったのにヒドイ……  犬も食わないのは夫婦喧嘩だと思いつつも、僕は黙って次の相談者を呼びに行った。 「次の方どうぞ」  ゆっくりと相談所に入って来たのは、20代前半と思われる暗い顔をした男性だ。  左足にギブスをし、松葉杖をついているその男は、右腕も折れているせいか三角巾もしている。首周りは火傷の跡も凄かった。  ソファーに座るのも一苦労という感じだったが、何とか腰を据えて一旦は落ち着いたようだ。  ニット帽を脱いだその男の頭は、サイドだけが肩まで伸びた長髪で、真ん中がハゲ上がっている。そして何故かそのオデコには『無傷』というタトゥーが入っていた。 「ま……待合席で書いていただいた、問診票を見せてもらってよろしいですか?」     
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