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「まあ、そんなところかな。もちろん強制権なんてないし、第三世代型ですら、ほっぽりだした私がみてもダメだろうけどね」
怪しい笑みを浮かべるヒカルノさん。この人は『朧月』には興味がないんだ。俺がなんでISを動かせるかを聞き出したいんだ。一夏では、あの元世界最強が出てくる可能性があるが、俺なら少なからず可能性は低い。
実際拘束して束さんでも出てきたら、鯛がつれたと喜ぶんだろう。
『この方は少し危険だと感じられます。ご注意を、落涙を部分展開し上空に待機させておきます』
朧も俺の身を案じて、勝手に行動する始末、だが、当の本人は一夏に絡んでいる。落涙の存在に気がついたのか?いや、そんなことはない。俺が狼狽することでも望んでいたのか?
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SPside
「はー。なーんか、かったるいわねぇ」
鈴は頭の後ろで腕を組んで廊下を歩きながら、はしたないことにストローだけで支えた紙パックジュースを飲んでいる。
「ふふ。、一夏がいないからでしょ?」
その隣で歩いているシャルロットがそう言うと、鈴はポロっとジュースを落としそうになった。
「ななぁっ!?ち、違うわよ!ふん!あんなやつ、いなくたって別にいいわよ!」
「はいはい」
ちなみにこの珍しい組み合わせは、前の授業で合同抗議があったのでその資料片付けの帰り道だ。さっそくジュースを買うあたり、非常に鈴らしい。
「しっかし、当分ISが使えないっていうのはやばいわよね。一応、パーソナルロックモードにしてあるから、盗まれないし、盗まれても使えないけど」
そう言って鈴は自分の腕の『甲龍』を見る。本来ならリングブレス状のそれは、パーソナルロックモードとして薄さ一ミリ以下の皮膜状態で腕に張り付いている。パッと見では、なにかのファッションシールにも見える。
「まあ、しかたないよ。一夏も開発元までメンテナンスに行っちゃったからね」
「そのせいで、専用機持ちは二人以上での行動が義務付けられたし、学園に残っているので一人なのって二年の楯無さんだっけ?」
「うん。それと燈と一夏、あと牡丹だね。たぶん大丈夫だと思うけど」
「............ったく、はやく帰ってきなさいよ」
思わずそう呟いてから、ハッとして鈴は口を手でふさぐ。しかし、バッチリとシャルロットに聞かれたようでにこにこと笑みが帰ってきた。
「ち、ちっ、違うのよ!」
「うんうん。心配なんだよね?」
「ち、違っ」
さらに声を荒げようとしたところで、突然廊下の灯りが一斉に消えた。廊下だけではなく、教室、電子掲示板、すべてが一斉に消えたのだ。もちろん、昼間で日光があたるため、真っ暗にはならない。...........と、思いきや。
「防御シャッター!?はあ!?なんで降りんの!?」
ガラス窓を保護するように、斜めスライドの防壁が順番に降りていく。ざわざわとそかこら中からどよめきが聞こえるなか、すべての防壁が閉じて、校舎内は真っ暗になった。
「..............二秒たったわ。ねえ、シャルロット」
「うん。わかってる。緊急用電源にも切り換わらないし、非常灯も点かない。おかしいよ」
ふたりはそれぞれにISをローエネルギーモードで起動し、視界にステイタスウインドウを呼び出す。同時に視界を案視界モードに切り換え、ソナーに温度センサー、それから動体センサー、音響視覚化レーダーといった機能をセットした。
『ラウラだ。シャルロット、無事か?』
『鈴さん、今どこですの?』
ISによるプライベートチャンネルでラウラとセシリアの声がそれぞれ届く。それぞれ返事をしていると、それを割り込み回線の声が遮った。
『専用機持ちは全員ちかのオペレーションルームへ集合。今からマップを転送する。防壁に遮られた場合、破壊を許可する』
千冬の、静かだけれど強い声。それは、このIS学園でまたしても事件が発生したことを国名に告げていた。
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