しゃぼんだま・デイドリーム

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俺も一瞬の安堵感から冷静さをかいでしまっていた。死への焦りで手が狂う。だが、そんな俺の方を受け止めたのは、鮮やかなオレンジの翼をもつ『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』―――シャルだった。 「燈、僕が守ってあげる」 ああ、助かった。もうこのまま無事なら、開幕のファーストショットなんてなかったことにしておこう。 と、安心しているとさ、ところどころ邪念が 「ん? どうしたの、燈」 「あ、いや、な。こうも密着しているとな・・・」 俺とシャルの顔が間近にある。潤んだ瞳やプルンとしている唇、しかも、体には柔らかな膨らみまで当たっていて、冷静さをかいでいる状態では、にっちもさっちもいきそうではない。 「あ、燈、近いよ・・・」 「わ、わるい」 見つめあってしまう俺たち。 交差する視線。 離れる体。 「「「あっ」」」 ヤッテシマッタ。ココハクウチュウデゾザイマシタ 「ばかなあああ」 再び落下する俺たちを、今度は白梅の花弁が俺たちを受け止めた。 「いらっしゃい、先輩」 「ぼ、牡丹か・・・はぁはぁ、助かった」 「いえいえ、補佐するのも後輩の役目ですから?さぁ」 牡丹が展開装甲を開いた瞬間、蒼穹の閃光が俺たちを奪い取った。 「せ、セシリアか。」 一夏の声で判断できたが、4基のビットで迫ってくる他のISをけん制している音だけが聞こえる。 「このまま降りますわよいち・・・お二人とも。準備はよろしくて?」 さらっと、一夏だけだったが。もう身の安全さえ確保できたらいいさ。もう無理に外さなくてもいいか。 「お、おう」 「ついででいいからゆっくり頼む」 今の高度が13メートルくらいか、はあ、これで今日は終わりだな。セシリアの要求は一夏だろうから俺にとっては関係ないな。なんて思っていると一夏が身をよじっている。 「すまんっ、セシリア!」 そんな言葉の後。俺たちはまた急降下を・・・・・始めた。 「なにしてるんだよ一夏!!」 「これ以上は無理だったんだ!」 「い、一夏さん!?なにをっ・・・・」 「大丈夫だ、セシリア!あそこの木に掴まれば骨折で済む!」 そんなことを言っているが 「馬鹿野郎!俺たち手を縛られているんだぞ!!」 「あっ、あああああ」 どうする、考えろ美月 燈。 ①仲間の誰かが駆けつけてくれる。 ②朧が『朧月』のセーフティロックを外す。 ③現実は非常である。 「お、朧」 『主様、織斑一夏を下の方に!主様の一命が最優先事項です!私は主様さえ生き残っていただければ!お願いです主様ッ!!!』 朧がテンパっている。驚きもあるが、②はダメ。となると①だが、一夏の悲鳴で一点集中の加速をしているがいかんせん遠すぎる。一番近いセシリアですら遠く感じられる。もうだめか、こうなれば一夏だけでも生き残らせる。あの人の悲しむ顔なんて見たくない!俺は身をよじり頭から落下していた体制を俺がクッションになるように位置を変えた。 「燈っ!何をっ!?」 「うるせ!お前がいなくなると千冬さんが悲しむんだ」 これで終わりか、どうせなら朧にもいろいろ言ってやりたかったな、シャルの卒業後の計画は誰かが伝えてくれるだろう。ナターシャさんのISはコードを変えさせればどうにかなる。 あとは一瞬の痛みを待つだけと覚悟を決めたとき、誰かの叫び声と体に別の感覚が伝わった。 「燈くん!」 目を開けると俺を下から抱きしめる形で地面との間に楯無さんがいた。 「大丈夫!?」 「は、はい・・・・助かりました」 俺の返事を聞いて、楯無さんは心底安心したとばかりに、ほっとため息をつく。 (さっきの必死の表情、初めて見たな) なにはともあれ、俺たちは楯無さんとともに地上へ着いた。 「はーい。それではこの種目は更識楯無さんの勝ちということで~」 いつの間にいたのか、実況席の山田先生(ブルマ姿)がニッコリとほほ笑んでいた。 「え・・・・」 「ルールはルールですし」 「いや、でも、あの、学年違うじゃないですか」 「そうですねぇ~。そうしましょう?でもあま、今回は楯無さんの優勝ということで」 山田先生はISを解除した楯無さんの手を上にあげ、高らかに言った。 「優勝は更識楯無さ~ん」 「そんな馬鹿な話があるか!」 「そうよそうよ」 「許せませんわ!ええ、許せませんとも!」 「山田先生、ひどいですよ!」 「ええい、一夏は私といればいいのだ!」 「お姉ちゃん・・・・卑怯」 「これには、納得いきません」 ブーブーと猛抗議する一同の頭を、スパーンと千冬さんがたたいた。 「駄々をこねるな。これにて大運動会は終了!各員、片付けにかかれ!」 へなへなと崩れ落ちる専用機持ち一同。ふと視線に気が付くと楯無さんが決まりの悪そうな顔でチラチラとみていた。 だが、それとは別に衝撃的だったのは 「そうだ、楯無」 千冬さんは振り返ると楯無の前に来た。楯無さんは顔を上げると。 パーンっ!  「次、このような事をしてみろ」 その頬を叩かれていた。みんなが片付けをしていたから気が付いたものはいなかったが、叩かれた頬に手を当てて頭を下げていた。 「千冬さんっ!」 「お前も・・・・いや、美月と織斑は帰っていいぞ。後は頼みます山田先生」 「は、はい。わかりました」 この場を後にする千冬さん。そんなに一夏が大事だったのか。あの時の判断は間違っていなかったかな。 『わたくしは絶対に許せません!主様のお命の方が』 「お前の気持ちはわかるがな、俺には恩があるんだ。自分よりあの人たちの幸せが優先なんだよ」 頭を上げた楯無さんと目が合った。 「仕方ないですって、一夏をあそこまで危険な目に合わせたんですから」 「・・・・・そうかもね」 「あ、更識さん一週間以内にどちらの部屋にするか決めておいてくださいね」 山田先生、業務に充実なのはいいが空気は読みましょうね。
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