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第2章
とうとう海にたどり着いたブラックは、小さなベンチに座る男を見つけた。
隣に座ると、男は少しブラックとの距離を空けた。潮風によって傷んだ木のベンチは、ギシギシと音を立てる。
男の名前はブラウン。自らを死んだことにして、仕事、家族、全てから逃げた哀れな男。この町では人と関わろうとはせずに生きている。
「ブラックさん、アンタは悪魔だ。本当に酷いことをしやがる。……だが、今回ばかりはアンタに感謝しなきゃならん」
ブラウンは悔しそうに、そう吐き出した。ブラックは何も語らない。
「俺達は何かを捨て、失った者達だ。アンタはどうなんだ。何故こんなことをする?」
「……これは、私への罰なのです」
ブラウンは驚いた。ブラックが住人と言葉を交わすことはない。初めて聞いた彼の声は、人間としての感情が欠如しているように感じた。覚えさせられた言葉を、ただ読み上げているだけのようであった。
しかし、それ以上語ろうとはしなかった。
「じゃあ、俺は行くよ」
ブラウンはそう言って海を離れていった。ブラックは何も、受け取らなかった。
雨が降り始め外套が濡れても、ブラックはしばらくの間、その場所を離れなかった。
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