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LA。
仁から発せられた言葉はあまりにも新鮮だった。
どうやら年末に両親とLAで再会することになり、ついでにやり取りのあるLAオフィスを訪問したらしい。
そこで社内で偶然開かれていたポットラックパーティに参加し、ゼネラルマネージャーを含むマネージャーたちと話す機会があったという。
日本に戻り出社すると、早々に和田さんから呼び出され、LAメンバーからオファーがきていると言われた。
訪問していた時には、そんな話など一切出ていなかったらしく、仁も相当驚いたらしい。
仁の仕事に対するパッションと頭脳明晰なコミュニケーション力、そして向こうのセールスチームとのリレーション。
LAのマネージャーたちが仁を相当気に入ったらしく、是非ともチームの一員として受け入れたいと東京オフィスに連絡があったそうだ。
言うまでもなく、ネイティブスピーカーと同等の英語力も評価されたことだろう。
上層部会議での結果、ポテンシャルのある外資系顧客の取り込み、本社であるアメリカとのリレーションを強化を含め、和田チームのエース的存在であるにも関わらず、LAオフィスの望み通り、仁を送ることが決まったらしい。
エクスチェンジプログラムという制度なんて使わなくても、選ばれし者は選ばれる。
仁がアメリカに興味がないことは知っているものの、こういう例外を生み出してしまうスキルを持っている仁を、素直に誇りに思った。
ここは同僚として祝福すべきなのに、かける言葉が見つからない。
好きだって言われた直後に、もう近くにいなくなるって。
そっと頭を撫で、見つめてくる眼差しは、隠そうとしている私の動揺も知っているのだろう。
「やっぱりすごいね、仁は。
先、越されちゃった。」
精一杯の言葉がこれだった。
ショックなんて受けてない。
そうでも振る舞わなきゃ、これから旅立つ仁に心配かけてしまうことになる。
「理沙らしいな。
こういう状況でもそう言うの。」
ふっと笑うと、また引き寄せるように抱きしめられた。
「俺はずっとこうしたかった。」
さらにぎゅっと抱きしめられ、何の躊躇いもなく唇が重ねられる。
全身が熱でほだされてしまいそうなのに、静かに重なるだけのキスは、それ以上を進ませようとはしない。
僅かに離れては、感覚を確かめるように、何度も降り注がれる甘いキスに、自然と手が仁の腰に伸びる。
なのに、キスを止めてしまうと私をただそっと抱きしめ、思いもしない言葉を口にした。
「まだ断れると思う。」
「・・・何?」
「LAの件。
俺、海を越えた遠距離はできないから。」
LAに行くと言われた時点で、遠距離は軽く頭をよぎったものの、早速それが無理だと断言されると、返す言葉が見つからなかった。
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