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1階のコンビニでジュースを買ってからオフィスに戻ると、エレベーターホールには、さっき商談で一緒だった仁が携帯で話していた。
目が合ったものの、そのまま首にかけた社員証をセキュリティーにタッチし、オフィスに入ろうとしたその時、話し中の仁が、私の腕を掴んで止めた。
「楽しみだったんですっごい残念ですけど、また江川さんが時間できたら行きましょう。
はい。では失礼します。」
仁はため息をつきながら、携帯をポケットにしまうと同時に、私の腕を離した。
「アイコムの江川さん?」
アイコムとはアパレル企業で、仁が担当しているクライアントのひとつだ。
江川さんとは私も商談で会ったことがあが、アパレル業界なだけあって、ファッションはもちろんのこと、爪の先からヘアスタイルまで完璧に整った、美人なPR部長だ。
「そう。今日の晩飯、ドタキャンされた。一緒に美味しいイタリアンの予定だったのに。」
「昨日ドーチェの黒部さんとご飯行ってなかったっけ?」
こちらはコスメ会社の広報担当だ。
「行ったよ。昨日は居酒屋でしっぽりね。」
仁にとってクライアントとご飯に行くことは、もはや当然のことだった。
「ということなので理沙、今晩俺の相手よろしく。」
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