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時刻はすでに12時を回っていた。
「あ、そろそろ終電だから行かなきゃ。」
千秋が時計を見ながら言った。
千秋は立川にある実家に住んでいる。
渋谷の夜は、終わることを知らない。
どこへ行き交うのか、あちこちから人が流れ、それは信号が赤になった時にしか、止まることを知らない。
スクランブル交差点で信号待ちをしていると、大型スクリーンから大雨の音が聞こえてきた。
夜の大都会を連想させるような、大きなビルが建ち並んだ街に降る大雨。
それがゆっくりとぼやけると同時に、サウンドは雨音から軽快なジャズに。
そして映像は、高層階でのホームパーティーを連想させるようなものへと変わり、赤いドレスを着た、パーティのホストらしき綺麗な女性が、ゲストにチーズとクラッカーを振る舞い、グラスに赤ワインを注ぐ、といったワインの広告だった。
「今日からやってるよね。どこのだろ?」
千秋が言った。
「Cの。」
すかさず仁が答えた。
Cとは競合の大手広告代理店のことだ。
今度のアンベリールのコンペにも名前が挙がっている。
「飲料のチームでもないくせに、よく知ってるね。」
千秋は感心するように、目を丸くして仁を見て言った。
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