1、横顔 by ルカ

2/9
前へ
/569ページ
次へ
そして、予感していた通り、有田さんは、まだ調理されていない新鮮なタコを、ドヤ顔で見せてきたのだった。 「小さいし、お客さんには出さないんで、好きなように調理しちゃってください。」 いやいや有田さん。 あなたもシェフなんだからあなたの腕前も見せて欲しいところですよ。 トマト煮にしようか迷ったが、素材がいいので、弾力を生かして、シンプルにマリネにしよう。 出来上がったタコマリネを、有田さんが焼いたピザと一緒に食べることにした。 昨日はそんなに飲まなかったおかげか、テラス席からの風が心地良いからか、気分はすっきりしていた。 店の隣にそびえ立つ大きな木が、昼間のテラス席に、いい具合に影を作る。 葉が擦れ合う音も、ゆるくかかっている店内のBGMといい具合にマッチしている。 雰囲気は最高。 ロケーションがあともう少し良ければ、週末客も増やせるのに、と思うが、そうなるとこの雰囲気を作るのは難しいだろう。 平日はお陰様で、周りの会社員にランチタイムから夜まで利用してもらっているし、至って不満はないが、もっとこの周辺に来ない人にも認知してもらいたい、というのが課題だなぁと思いつつ、有田さんが釜で焼いたピザを食べた 。 この人のピザは、イタリア人となかなかいい勝負ができると、いつ食べても思う。 上手い。 向かいで携帯を見ながらタコを噛んでいた有田さんが、「あ」とこぼし、じっとこちらを見てきた。 「何?」 すると、iPhoneの画面を見せてきた。 そこには『W杯日本代表 筒井剛 モデル白川あずさ 電撃入籍!』と書かれてあった。 何と返せばいいのかわからなかったが、とりあえず「コングラチュレーション。」と言っておいた。 メディアを通じて知るのも不思議な感じだが、別れて以来連絡は取っていないし、そもそも、すでにどうでもよかった。 超モテるであろうW杯出場選手が、結婚を決める位の相手だったことは、間違いないとは思う。
/569ページ

最初のコメントを投稿しよう!

363人が本棚に入れています
本棚に追加