※30、雨落ちれば

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綺麗に揃った睫毛を見つめていると、強張っていた力がすっと抜け、仁の胸を押す腕が落ちていく。 今まで逃してきた時間を埋めていくような、静かで優しくて、長いキス。 苦しくなってきたところで顎をひき、唇から逃れようとしたが、それを許さないように手で頭を押さえられると、またすぐに唇を塞がれた。 「んっ・・・。」 さっきよりも強引で、仁の男の力を感じ、胸の奥がぎゅっと熱く、痛い。 このまま仁の腕の中で溶けてしまいたいと思うのに、ずっとずっと、抑え込んでいた気持ちがやっぱり戸惑わさせる。 再び仁の胸を押し抵抗しようとすると、キスをしたまま目が合った。 とろんとしていて、色っぽくて、もっと見ていたい、唇を感じていたいと思うのに。 今度は私の力に従うように、そっと唇から離れた。 「・・・俺じゃ嫌?」
 初めて聞く仁の、くすぐったいような、緩くて甘い声。 こんな意地なんて捨てて、全部忘れたフリをしてしまいたいくらいなのに、それが出来ない不器用な自分が本当に嫌い。 「だって・・・、私を傷つけるようなこと、できないんじゃなかったの?」 「うん。 したくない。 ・・・なんでかわかる?」 「だって・・・、私に勘違いさせたくないから。」 「勘違い?」 眉間に皺を寄せて、わからないっていう顔。 わかってるくせに、こんな時にまでジリジリさせられると胸が潰れる。 「だからっ。 仁が私のこと好きかもしれないって、そう期待されたら困るからでしょっ?」 一体何を考えてるの? どうして無表情のまま、何も言ってくれないの? なによ、そんなに落ち着いて。 否定もしてくれないの? だったらどうしてキスなんかしちゃうのよ。 もうっ、と大粒の涙が落ちかけた時。 「困るわけないだろ。 俺はずっと、理沙以外見えてない。 好きで好きで、もがいてたのは俺だよ。」 喉まで出てきていた次の罵声は、その言葉と同時に溶けていく。 ずっとそう言われたかったのに、目の前で実際に言われる日がくると、どう反応していいのだろうか。 そんなことに悩むのは束の間のこと。 「でも、色々と理沙に話さなきゃいけないことがある。」 真剣で、どこかもの悲しげそうな瞳に、またいつもの不安が押し寄せる。 「俺は、そばにいれなくなる。 4月から、LAに行くことになった。」
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