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仁は過去に、遠距離をしていた彼女がいたと話した。
最初は互いに時間を合わせたり、連絡も頻繁に取り合っていたが、会いたくても簡単に会えない距離に、だんだん彼女を裏切り、嘘をつくようになってしまい、自分がコソコソしていることに耐えきれず別れてしまったらしい。
いつも自分の恋愛話を濁していたのは、こういうことだったのか。
「本気で好きだったし、遠距離になっても大丈夫だって自信があった。
でも、違った。
俺はそんなに強い奴じゃなかった。
恋愛して結局ひどく傷つけてしまう位なら、しない方がいいって、ずっと自分に言い聞かせてきた。」
今まで特別な存在と呼べる相手を作ってこなかったのはそういうことか。
「だから、理沙を同じ形で傷つけることはできない。
LAのことは正直決断するまでにすごい悩んだけど、理沙と一緒にいれればいい。
今ならちゃんとわかる。」
こめかみに垂れる髪をそっと耳にかけられ、両手が頬をそっと覆うとまっすぐに見つめられる。
「大事にしたいんだ。
もう自分の気持ちにブレーキをかけたくない。」
きっと、本気で言ってくれているのだろうし、それだけ思っていてくれているということが何より嬉しい。
もっと早く、素直になればよかった。
もっと一緒にいる時間をきちんと過ごせばよかった。
タイムリミットがあると知った途端に、そんなことに気づいてしまう自分の不器用さがやっぱり憎い。
私は遠距離恋愛をしたこともなければ、時差のある遠距離など想像もつかないけど、経験者である本人が出来ないというのなら、それ以上のことは言えない。
でも。
私たちにもまだ、一緒にいれる時間は、少しだけある、よね?
「LAのこと、すごい悩んで出した答えなんでしょ?
・・・やっぱり止めるなんて、嫌だよ。」
悩んで決めた折角のチャンスを、自分のせいで棒に振ってなんて欲しくない。
「一応言っておくけど、俺、こういうこと、誰にでも言ってるわけじゃないぜ?
何ならこんな気持ち、元カノにも抱いたことない。
大事すぎて、手も出せなくて、いつもひとりでもがいてた。
でも、それは間違いだった。
さっさと気持ちを伝えるべきだった。
もう後悔したくないんだ。」
色んなことが頭の中を埋め、複雑にしてしまう。
好きな人に一緒にいたいと言われて嬉しいはずなのに、私はどうしてその気持ちすら、素直にそのまま受け止めてしまえないのか。
私も仁と一緒にいたい、行かないで、側に居てー。
そう言ってしまうのが正解?
でも結局そのひと言は、私の口から出なかった。
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