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「・・・幻滅した?」
静かにトイレから出てきた仁に言った。
自分でも驚く程あっさりとそんな言葉が出た。
床に視線を落とし、ドアにもたれたまま、仁はゆっくりと首を振った。
秒針の音がやけに部屋に響いて、仁の言葉を待つ。
優しい仁のことだから、傷つけないような言葉を選ぼうとしてるのか、それとも、どうやってそろそろ帰るって切り出そうと考えているのかもしれない。
ゆっくりと床でソファにもたれ掛かる私に近づいてくると、手を差し出してきた。
その手を取ると引っ張られ、立ち上がるとすぐにそのまま抱き寄せられた。
「もっと早くこうしなかった自分に幻滅してる。
俺は全てを知った上で気持ちを伝えた。」
全て。
その言葉に深い意味はあるのだろうか。
私が柴田君とどんな関係を持ったのか、本当に全部知っていたら、きっとそんなことは言えなくなるんだろう。
そう思うと自分がやっぱり情けなくて笑えた。
「仁、あのね。
私、仁が思ってるような子じゃないよ。
本当に全てを知ったらきっと幻滅する。」
抱きしめられながら、脱力するように仁の頭が肩に乗り、大きく胸を上下させ、落ち着きのないため息を感じた。
「・・・しない。
もう全部知ってるから。」
「知ってる?」
体を離されると、両手を肩にかけ、思い詰めた視線と目が合った。
「・・・多分、これを話したら俺は理沙を傷つけることになる。
黙っておこうと思ったけど、関わってる以上、やっぱり言っとかなきゃいけないんだと思う。」
そして重い口を開くように話す内容に、私は耳を疑わずにはいられなかった。
盗撮?
そしてそれを仁に見せた??
仁が柴田君を殴った理由に、まさか自分が関係していたなんて。
柴田君が、ずっと仁と血の繋がりがあるかもしれないと信じていたなんて。
事あるごとに、私に仁への想いを確かめていたのは、そういうことも関係していたの?
じゃあ、さっきの『俺なりにあなたを愛してました』っていうのは、何だったの?
「人の愛し方は違うのかもしれない。
でも、俺をキレさせるために好きな人との行為を晒すのは、全く理解できない。」
私の今の頭じゃもう上手く情報処理ができないのか、激しい怒りや悲しみという感情すらも出てこない。
そう。
そうやってそっと抱きしめてくれれば、とりあえず今は、それでいいのかもしれない。
「俺はあいつを許さないし、俺は理沙が柴田と一緒にいて欲しくない。
理沙には誰よりも幸せになってほしい。
本気でそう思う。
でも、あいつはその相手じゃない。」
柴田君のことなんて、もうどうでもいい。
それよりも、無感情になっていた心に刺さってしまったあなたの言葉。
ねぇ、どうして『幸せになってほしい』なの?
あなたはきっと、やっぱりこの時から悟ってたのかな。
幸せにするのは自分じゃない、って。
優しく包まれる腕の中、泣いたのは柴田君の真実を知ったからじゃない。
あなたが私の側からいなくなってしまう、そう確信したから、涙が止まらなかった。
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