※30、雨落ちれば

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******************* 冬が苦手な私は、いつも春が待ち遠しかった。 厚着にコートを着ていてばかりだと肩が凝るし、何より、新しいスタートを切れる春は心身共にリフレッシュされるようで好きだった。 今年は、徐々に和らいでいく寒さと共に、私は何を、どう感じるんだろう。 結局、職場復帰した仁は1週間の自宅勤務以外の処分は言い渡されなかった。 一時は柴田君と仁の話題で社内でも色んな噂が飛び交っていたが、仁の復帰と共にそれも落ち着いていった。 仕事上でどちらとも近いし、私の名前が出たものもあるらしいが、仕方のないことだろう。 そして大胆にも、仁は本当に、和田さんにLA行き取り下げを申し出たのだった。 もしかしたら本当に仁が日本に留まるのかもしれない、そう思うと複雑ではあるものの、やっぱり一緒にいたいということを、どこかで願ってしまう自分がいた。 柴田君のことに関しては、外出中に2人きりになった時、仁から全て聞いたことを伝えた。 しばらくは、顔を見る度に込み上げる怒りと失望を社内で見せないようにするのに必死だったが、話す時にはある程度冷静になれていた。 「俺なりに本気で愛してたって言ったでしょう? 愛する人との最後の行為になるってわかっていたから、何らかの形で残したいと思っただけです。 それを星野さんに見せるべきではなかったことは反省しています。 でももう消去しました。 ご心配なく。」 肝心なことを全部さらりと言われたせいか、それ以上言う言葉が見つからなかった。 相手も話を続ける気はないらしく、すぐに次の商談についての内容に話を切り替えられた。 何もない関係に戻ろうと言ったのは私だが、何となくどこかすっきりしなかった。 やっぱりこの人は私には理解できないんだな、と思うと、もうそれ以上考えるのは止めようとした。 彼の行動を理解できないのは、きっと私だけではないはずだろう。 誰にも理解できない行動をする、それが彼なのだと私は後に知ったー。
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