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『話したいことがある。
今日ちょっと早く終わらせるからメシ行こう。』
取り下げを申し出て1週間位してからだろうか。
仕事中に仁からメッセージが届き、即答で『オッケー』と返した。
きっと返事がきたんだろう。
あの夜ー。
私たちは同じベッドで寝た。
暗闇の中、向き合いながら優しい手でゆっくりと頭を撫で続けられ、大事にされているのがなんとなく伝わった。
時々、抱きしめられたり、そっと優しいキスを注がれ、このまま夜が明けなければいいのにと小さく願ったものの、温かい手と落ち着く匂いに包まれると、眠気には勝てなかった。
寝落ちしてしまう前、もう1度だけ言った。
「応援するから、LAのこと」と。
最後に強く抱きしめられると、仁ももう1度言った。
「本当に好きなんだよ」と。
そのまま何も言わず、多分私が先に寝落ちした。
堀チームも、和田チームも、当然のことながら通常以上の激務の日々だった。
互いに外出が多いから、社内ですれ違うことも全くなかった。
『やっと家に帰った。おやすみ。』
『俺ら同じ会社務めてるよな?笑』
『おやすみ。
・
・
・
会いたい!』
こういうメールが1日に1回、寝る前に送られてくるようになっただけでも、何とも言い表わせない幸せを感じた。
頻繁に連絡を取らなくても、ちゃんと思ってくれていることが伝わればそれでもいい。
期待しないほうがいいってわかっている。
でも、ずっとこのまま、互いに仕事のことを理解しながら、関係を育んでいければと、その先を妄想しようとしてしまう。
私たちが恋人になったらー。
そんなことを妄想しては掻き消す、それを繰り返しながら1階のエントランスホールで待っていると、エレベーターから出てきた人たちの中に仁の姿を見つけた。
背が高いから?
誰よりもスーツ姿が似合ってるから?
それともただやっぱりかっこいいから?
こんなにも早く見つけられるのは、やっぱり仁が魅力的なのか、それとも、ただ私が仁に恋をしているからなのか。
堂々とこちらにまっすぐ向かってくる姿を、ただ見つめた。
この人が、私のもとに向かって歩いてきてくれる、それだけでも心の中で尻尾を振っている犬のような気分になってしまう。
「お待たせ。
店、表参道で予約してるんだけど、まだ時間あるし歩く?」
今日も1日中ヒールで歩き回って疲れてるけど、仁と2人でいれるんだったら、どこまででも歩きたい。
オフィスを出ると、渋谷駅とは反対方向に向かって歩き出した。
人の流れが減り、競技場当たりに差し掛かり歩道橋を渡る時、私が少し歩くスピードを緩めたからか、先に階段を進む仁が振り向くと、さっと手を差し伸べた。
何も言わずにその手を掴む。
ぎゅっと握る手に力が込められ、階段を登り終えても離す気はないらしい。
ちょっとだけ見つめ合うと、にこっと向けられる笑顔にキュンとした。
些細なことひとつひとつが嬉しくて、もうこのままどこまででも連れて行って欲しかった。
あなたとなら、どんな冒険にも出れる気がする、私はそう思っていた。
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