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メシに行こう、それから想像したのは、もっとカジュアルなお店だったが、連れてこられたのはまさかの高級フレンチだった。
店の前に着いた瞬間、こういうところに行く前には心の準備がいる私は足が止まった。
クライアント先を回っていたからそれなりには着飾ってるつもりではいるものの、それでもやっぱり、メイクからアクセサリーまで、何もかもが足りない気がした。
あたふたする私を見て、仁は笑った。
「こんなのフライングじゃんっ!」
「あぁ、ごめん。
俺デートに誘ったつもりでいたわ。」
そうか・・・、これはデートなのか。
いつもと同じノリだったから、焼き鳥とか居酒屋だと思い込んでいて、改めて仁とご飯に行くことをデートと考えていなかった自分が、途端に恥ずかしくなってきた。
「フランス料理って・・・。
仁そういうガラだったっけ?」
「失礼だな。
もういいからそんな照れんなって。
そのままで十分可愛いから。
行くよ。」
・・・なんだろう、この感じ。
可愛いとか、デートに誘ったとか、仁からそういうことが自分に言われる日が来るなんて、くすぐったすぎて、自分の中で忘れていた女子の部分が刺激される。
恋をする女子は輝く、久し振りに感じるこの感覚が嬉しかった。
仁の誘いに乗ってワインとペアリングの5品コースをオーダーした。
普段はあまりこない場所なだけに、写真がないとピンとこないので有難い。
最初に運ばれてきたシャンパングラスを見つめながら、何に乾杯するのかよくわからないままとりあえず「お疲れ」と言ってグラスを合わせた。
一緒にいることなんて慣れてるはずなのに、気持ちを知ってるせいか、改めてこういうデートというものを仁とすると妙に緊張してしまう。
相手は至っていつもと同じで何も変わらないのがちょっとだけ悔しい。
「カフェ教師さんのクラブ、もうちょっとでオープンするらしいな。
諸川が言ってた。」
そういえば先日ルカから、オープニングパーティ招待状のメールが届いたところだった。
クラブオーナーの庄司さんといえば、高視聴率を集めていた話題ドラマの最終回が先日放送されたばかりだった。
アボーノは、ヒロインたちがよく雑談する場所として使われ、以来アボーノは平日週末を問わず賑わっているようで、週末のランチは最近予約が必要なほどだ。
私も最近はずっと行けていない。
「諸川が庄司プロデューサーに会いたいって言ってたから、一緒に連れてってやれば?」
まだ参加するか返事はしていなかったが、千秋が行きたいと言うなら。
「仁も、行く?」
そもそも私はナイトクラブなど友達に連れられて数回行ったくらいで不慣れだ。
3月末だから、もし仁がLAに行くことになったら難しいのかもしれないが、行けるなら仁と一緒に行きたい。
「いいね。
今話題の大物たちのナイトクラブとかなかなか行けそうにないしな。
行けそうだったら是非行かせてもらうよ。」
行けそうだったら・・・。
「LAの件、どうなりそう?」
仁から切り出すのを待とう思っていたが、やっぱり気になって仕方ない。
仁は少しだけ後ろを気にするような素振りをすると、真面目な顔で向き直った。
「その話は、後にしてもいい?」
拍子抜けする返事に一瞬呆気にとられたが、同時に前菜が運ばれ、話は再びナイトクラブに戻された。
合わせて会話をしていたものの、頭の中では、きっとLA取り下げは受け入れてもらえなかったのだろうという憶測を拭えず、最後の方は笑顔を見せるのも辛かった。
ちゃんと言われた時に大丈夫なように、心の準備をしていかなきゃいけないのに。
デザートに運ばれてきたフォンダンショコラをフォークで割ると、中のチョコレートソースがとろっとお皿を茶色くした。
この温かいソースにつけて食べるのが最高に美味しいはずなのに、苦く感じるのは気のせいなのかな。
結局食事中にLAの話を持ち出されることはなく、私たちはお店の外に出た。
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