※30、雨落ちれば

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「自信のないことは言うべきじゃないのかもしれないけど、俺、こんなにも誰かを好きになったことないんだ。 だから、離れてもきっとずっと好きなんだろうと思う。 でも、会いたくても簡単に会える距離じゃない。 話せるタイミングもズレるし、好きな人に触れられないって本当に辛い。 俺がというよりは、2年も好きな人にそんな思いをさせられない。 もしかしたらもっと長くなるかもしれないし、今はわからない。」 そっと風になびく髪を撫でる手つきが優しくて、心の芯がキュッとなる。 まっすぐに、私だけを見つめる視線が好きで、離せない。 「仁。 私、仁のことー・・・。」 その続きを遮らせるように、仁は手を被せて私の口を噤んだ。 「知ってるよ。 ちゃんとわかってる。 でも、俺がLAに行ってしばらくしたら、言ってる意味がわかるようになるから。 だから、理沙は言わなくていい。」 唇から手が離れると、大きな手が頭を包み込み、そのまま肩に抱き寄せられた。 さっきはあんなに自然に笑顔を出せたのに。 さっきの私はどこに行っちゃったんだろうか。 「理沙は簡単に見つけられるような子じゃない。 LAでこのことを後悔するのも、もう見えてる。 とりあえず遠距離で繋いどきゃいいじゃんって囁きも聞こえる。 でも、理沙に辛い思いをさせる自分も、幸せにできない自分も正直辛い。 何かあった時に守ってもやれないし、駆けつける事も出来ない。 俺は一番近くで見てきたから。 理沙には、側に一緒にいれる相手のほうがいい。」 「・・・そんな相手、いるんだったらとっくに一緒になってる。」 好きな人に抱きしめられ、好きだって伝えられながら、他の、いるわけでもない男を勧めてくる。 本当に私の幸せを願って言っているように聞こえるが、私には仁の気持ちが理解できなかった。 どうして私はいつも単純な恋愛ができないんだろう? もっと自分の気持ちに正直になればいいの? 「私が一緒にいたいのは仁なの。」 ちゃんと言葉すると、その思いが一層強くなった気がした。 ・・・だから仁は、私の口を噤んだのか。 「一緒にいるよ。 日本にいる間は、理沙がいたいだけ一緒にいる。 今日も本当はもっと一緒にいたいけど、仕事が鬼のように溜まってるんだわ。」 胸の中にうずくまったまま、うんうんとだけ頷いた。 「そういえば明日はアイコムの江川さんと飯だ。」 去年の夏に機会を逃して以来らしく、仁がLAに行く前に食事をしようと誘われたらしい。 きっとLAに旅立つまで忙しい日々は変わらないだろうなと思いながら「そっか。」とだけ相槌した。 「妬いてる?」 「ううん。 だって、仕事でしょ?」 「ちっとも妬かないの?」 「別に。 仁が美人クライアントさんと食事に行くとかそういうのはもう散々聞き慣れてるし。」 「そうだな。 理沙も俺のこと知ってるもんな。 あー・・・もう本当好き。 何回も言わせて。 俺は理沙が好き。」 私も好きー。 でも、さっき口を噤まれたし、言わないほうがいいのかな。 抱きしめ返して気持ちを伝えようとした。 「・・・理沙はそのままでいいから。 何も変わらなくていい。 俺はどうであれ理沙しか見てないから。 でも、理沙に同じようにしてとは言わない。 LAに行くまでの間だけ彼女になってとか、ズルイことも言わないから。」 そっか、そんなことも考えていないのか。 関係を深めてしまうと、お互いに別れるのが辛くなるからということかな。 「でも、好きだって言わせて? こうやってぎゅっと抱きしめさせて。 あと・・・。」 そう言いながら体を離すと、じっと見つめてくる視線に囚われる。 「キスも、したい。」 真剣な眼差しで一生懸命に聞いてくる姿がちょっと可愛くて、思わず笑みがこぼれてしまう。 「いいよ。」 返事した途端、唇に優しく口付けされた。 「・・・あの、だからまだ私たち外だよ。」 「外じゃ駄目?」 「私は恥ずかしいかな。 外ではちょっと控えてもらえると・・・。」 「じゃあ検討する。 でも次から、していい?とか確認しないから。 覚悟してて。 俺が超Sだってのも、ね。」 「はいはい。」 それから、タイミングが合えば一緒に帰るようにしようと約束したものの、仁は相変わらず食事や飲み会続きで、一緒に帰れることはほとんどなかった。 仕事関係に加え、プライベートでも交友関係の広い仁は、あっちこっちから引っ張りだこだった。
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