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それでも、必ず帰り際には、何を食べたかとか、今日は誰と会ったとか、明日は会えるといいなとか、そういうメッセージが来るようになった。
週末になると、泊まりに行ったり来たりした。
焼き鳥とか、居酒屋とか、ラーメンとか、焼肉とかでご飯して、家でまったりする。
まったりと言っても、くっついて映画を観たり、抱きしめあったり、キスして、好きをいっぱい伝えられて。
宣言された通りのことだけだった。
一緒のベッドに入っても「おやすみ」を言えばそれで終わり。
激しいキスとか、それ以上のことは、どうやら進めたくないらしい。
キスが続くと止めちゃうし、ベッドに入ってからのハグは淡白なもので、そういう雰囲気にならないように自制しているのは明らかだった。
恋人になったわけじゃないから?
そういう関係になると、別れが辛くなっちゃうから?
それとも、柴田君に見せられた動画のせい?
好きな人を他の人に抱かれているところを見せつけられるなんて、相当な衝撃だったのは間違いない。
淫らな女だって、失望されたのかもしれない。
本心を聞いてしまえばよかったのかもしれないけど、本当のことを知るのが怖くて、できなかった。
仁の寝顔を見つめながら、寝れない夜を何度か過ごした。
同部署である柴田君とは毎日顔を合わし、打ち合わせもするし、一緒に出掛けることもある。
話すことは最低限、もちろん、仕事のことだけで、目を合わすことは避けた。
なのに。
遅くまで残業していた、ある夜。
なかなかデスクから離れられず、夜食を買ってくる時間もなく、さすがに空腹が限界にきていたので、リフレッシュルームに何かないか覗きに行った。
部屋の電気は消されていたが、自販機や廊下からの明かりもあって、真っ暗というわけではない。
電気をつけず薄暗い部屋のまま、バランス栄養食らしきものを見つけると、貯金箱にお金を入れて部屋を去ろうとした時。
部屋の奥にある畳スペースから、唸るような低い声が聞こえてきたのだった。
遅くまで残業している人は、時々ここで仮眠する人もいて、それは別に珍しいことではなかったものの、唸り声が気になって、私は畳スペースの方に足を進めた。
畳の上に、靴を履いたまま横たわる大きな体。
誰だかわかった瞬間、そのまますぐにその場を去るべきだった。
でも、いつもと違う姿を見せられると、やっぱりそのまま放ってはおけなかった。
同じチームの仲間として、営業を支えるべきポジションとして。
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