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彼女。
正確には俺は彼氏でも、理沙は彼女でもない。
しかし、彼女のような存在がいるっていうのは、こんなにも世界観が変わるものらしい。
仕事、飯、風呂、寝る、起きる。
この繰り返しばっかの毎日で、いい加減体壊すんじゃないかと思うような生活だが、毎日が驚く程充実していて、今の自分は無敵なんじゃないかと思う程に生産性は高いし、何より忙しいのに、満たされている。
同じ会社でも毎日顔を合わすわけじゃないから、社内で見た時はすっげーラッキーな気分になるし、独り占めできる時なんか、ただこの子の側でずっと癒されていたいと思う。
それと同時に、LA転勤は絶対に間違っていない決断だと、揺るぎない気持ちもあるから複雑だった。
広告、IT、どっちもやっぱりアメリカは先を行ってるし、トップが集まるエリアで色んなことを学べる機会を、逃すべきじゃないんだろう。
和田さんの見事な会話誘導で、自分の思っていることを隅から隅まで吐き出させてもらった。
イギリスの大学院に行く前、当時付き合っていた彼女に結婚を申し出て、一緒に連れて行ったという和田さんは、気を許した奴しか連れて行かないという、秘密にしておきたいお気に入りのお店で、前菜に必ずオーダーするという洒落たカナッペを口に運びながら「プロポーズすれば?」と、実にさらっと言ったのだった。
俺が理沙に気があるなんてことは、ずっと前からわかっていたらしく、本気だということもなんとなく感じ取っていたらしい。
「お前さ、真淵が部署異動決まった時、会社戻るなり俺のとこまっすぐ来て、不満と怒りを端々にぶつけてきたよな?
面倒臭ぇーと思いながら、もう真淵への愛が見え見えで、面白かった。」
そういやあの時、鎮静するのに時間がかかって、理沙を待たせた記憶がある。
この人、そう思える人に出会える確率は、自分が今まで出会ってきた人の数を考えればわかる。
そんな女がフリーなら、周りの男は放っておかない、というのが和田さんの意見。
まだ理沙と付き合ってすらいないのに、結婚という言葉に違和感を感じなかったのは不思議だった。
でも、それが今の理沙にとって、俺にとって、本当に幸せな選択肢か?
結婚してアメリカに連れて行くことはできるけど、ビザの関係で理沙は仕事ができなくなるし、それは理沙が望んでいる手段ではないはずだろう。
理沙には自分の目標があるし、俺の勝手でそれを奪うことなんてしたくない。
でも、一緒に過ごせば過ごすほど、好きな気持ちは強くなる。
どんな仕草も愛おしい。
真面目な顔でパソコンに向かってる顔も、寝起きで目が開いてない顔、ぼーっとしてる顔もいいけど、目が合って「なに?」って聞いてくる時のあのちょっと笑った顔、もう最高。
たまんなくて不意打ちでキスとかすると、ピクッてしながら受け止めてくれるリアクションも毎回可愛いし、手を繋ぐとちょっとだけ寄ってきてくれたり、思いにふけてる横顔とか、ずっと見ていたいと思う。
本人はそんなつもりはないだろうけど、一緒にいるだけで俺は充電フルになる。
理沙の魅力は、絶対誰よりも挙げられる。
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