※30、雨落ちれば

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絶対誰にも言わないけど、これが愛のパワーってやつなんだろう。 軽いキスしかしたことないけど、唇の触感がエロくて、夜にいちゃつき始めると、かなりやばい。 俺がしていいのは、好きって言わせてもらうことと、ハグ、キス。 それ以上は、越えれない。 なのに、裸もエロい姿も声も、知ってる。 破壊寸前の嫉妬心も、欲情も愛情も精も、全部出してしまえばちょっとはマシなんだろう。 でも、俺がもうすぐいなくなる男というのは、変わらない。 理沙もそれ以上を求めてくる感じもないし、やっぱり別れが辛くなるから、体の関係持つまでにはなりたくないんだろう。 好きな人を大事にしきれないって、こんなに苦しいことなのか。 何年行くかわからないのに、待っててなんて、言えない。 結婚して一緒に来てって、そんなことも、未熟な俺にはまだ、言えない。 そもそも、結婚して夫婦になるってことの良さも、俺にはまだよくわからない。 理沙には、側に一緒にいれる相手の方がいい、幸せになって欲しい。 これだけ好きだって言っておきながら無責任なことだよな。 本心かって? そりゃあもちろん、好きな子にはいつも笑っていて欲しい。 でも隣にいるのが別の男だっていうのは、想像すらしたくない。 目まぐるしい毎日は過ぎ、LA行きの片道チケットも手配され、東京を離れるまであと残り1週間となった。 住み慣れた部屋を引き渡し、ビジネスホテルでのプチ生活が始まった。 仕事を終えては送別会のオンパレードだったが、全部の業務引き継ぎを終え、東京オフィスでの最終日も無事に終えた。 LA出発前日。 夜に、理沙のカフェ教師のオープニングパーティに行くこともあり、滞在していたビジネスホテルを離れ、六本木のいいホテルに移動した。 色んな意味で、これに参加することは絶対に逃せなかった。 それから、その後、理沙と2人だけの時間を、ゆっくりと過ごすことも。 土曜ということもあって、ホテル周辺は買い物客で賑わっていた。 仕事で来ることの多かったエリアのひとつでもあるものの、こうやって時間や次のアポを気にしないでぶらっと歩くのは初めてで、どこか新鮮な感じがした。 頭の中はいつも、次のプレゼンをどうしようか、今日の商談はどんな流れにしようか、次のクライアントまでどの路線で行けば一番早いか、とか、常に仕事のことだった。 いかに自分が、周りの景色をゆっくり見ていなかったのかと気づかされる。 こういう働き方も、LAに行ったらきっと変わるんだろうと思うと、少しだけセンチメンタルな気分になるのは、なぜだろう。 隆史と最後会うためにホテルのロビーで会おうと伝えると、『理沙ちゃんと最後の夜をハッスルするのに最高な場所だな(サングラスの笑顔マーク)』と返信が来た。 『もうちょっとマシな言葉選べないのかよ。 ってか理沙とそういう関係になってないから』 『え? やってないってこと?』 『俺はいなくなる身だし』 そこから返信は来なかったが、時間通りに隆史は芽衣ちゃんとロビーに現れた。 「お前さ、明日LAに行くんだよな? しばらく会えないの、本当にわかってる?」 怪訝そうな顔の隆史が俺に詰め寄った。 「一応わかってるつもりだけど。」 「お前さ、俺がいちいち言わないとわかんないの? 仁が理沙ちゃんを大事にしてるのは、よーくわかった。 傷つけたくないのも、別れを辛くさせたくないのも、よくわかる。 でもな、理沙ちゃんが本当に大事なら、抱け。 行く前に、お前の愛を全身で伝えろ。」 真剣な顔で言い終えると、袋にも入っていない『GOKU・USU』とアルファベッドで書かれたパッケージ丸出しのそれを堂々と渡された。 周りに人がいなかったとはいえ、こういうところで、愛を全身で伝えろ、とか、こういうものを恥じらいもなく渡してくる、それが隆史。 慌てて受け取るとギリギリポケットに収まり、シャツの裾で見えている部分をなんとか隠した。 「お前って本っ当焦るわ!」 他にも、カップラーメン、煎餅、のど飴、ガム、描きやすい日本製ボールペンセット、スポンジと、組み合わせはバラバラだが、「とりあえず日本製の方がいいやつ、思いついたの買っといた」という物を色々と渡された。 隆史とは電話したりするだろうけど、しばらくこういうやり取りが出来なくなると思うと寂しいものだった。 ホテルの部屋に戻り、隆史から受け取ったものをスーツケースの側に置いた。 ポケットにしまっていた箱も取り出したが、これはどこに置くべきなのか。 本当に大事なら抱けー。 真剣に隆史に言われた言葉が頭を反芻しながら、パッケージと睨み合う。 こんなにも我慢してきたのに、ちょっと背中を押されるだけで、堪えてきた全部をはち切ってしまいたい欲に襲われる。 待ち合わせの時間まであと数時間。 最後の夜、最後の時間。 数年分の彼女を、俺はどこまで焼き付けられるんだろうか。
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