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by 理沙
庄司さんプロデュースというナイトクラブ兼バー『Aqua(アクア)』。
1階は全面ダンスフロア、2階はテーブルやソファ席がゆったりと並んでいて、バーカウンターでは料理をオーダーすることもできるらしい。
さらに3階は開放的なルーフトップバーがあり、周辺は木々に囲まれ、中央には細長いプールと、都会の喧騒を忘れさせてくれるような空間が広がっていた。
「わぁ・・・。」
まるでどこかバケーションにでも来たような光景が目の前にあり、思わず声がこぼれた。
水中から照らされる光のエフェクトで、プールがターコイズブルーやエメラルドグリーンにゆらゆらと色を変え、何とも幻想的だった。
『Aqua』という名前がまさにぴったりで、テラス席に上がって来た周りの人たちも魅了されていた。
「ここ本当に六本木?
素敵すぎっ!」
千秋が目をキラキラさせ、興奮気味に言いうと、周りの男性陣たちは千秋に気づき、そしてそのまま釘付けになっているようだった。
胸上と背中がシースルーで、胸元に大きなリボンがあしらわれた黒のオケージョンサロペットの装いで、可愛いとセクシーがいい感じに混ざり、さらに程よい具合に崩されたポニーテールが絶妙で、今夜の千秋は女の私も見惚れる程に可愛かった。
こういう男の視線を注がれるのに慣れている千秋は、全く気にもしていないようだった。
千秋が立っているのとは反対側の指先に指が触れ、私はそっちの方を見た。
すぐに目が合うと、仁は軽く微笑み、千秋に気づかれないように、そっと軽く指先を掴まれた。
触れられてるのは慣れてるはずなのに、こういう仁の突然の行動には、未だに胸がキュッとなる。
家を出る前、自分に言い聞かせることにした。
一緒に過ごす最後の夜だって、意識しないこと。
最後だからって、しんみり悲しい気持ちになってしまうなんて、勿体無い。
それに、これは最後なんかじゃないから、寂しいなんて思っちゃ駄目。
一緒にいれる時間を、思いっきり一緒に楽しまなきゃ、と。
仁に笑顔を返し、そっと指を握り返すと同時に、「理沙。」というちょっぴり懐かしい声が後ろから聞こえた。
軽く掴んでいた指が解け振り向くと、薄いブルーのシャツにネイビーの蝶ネクタイをしたルカがいた。
とびきりの笑顔と軽いハグで「久しぶり」と言い合い、千秋と仁を紹介した。
「見て見て!ルカがあそこにいる!」
「キャー!本物!かっこいい!」
あちこちにいる女子たちの声と視線が、一斉にこちらに注目した。
最近、大手菓子メーカーがルカをチョコレートのCMに起用した。
シェフとしてキッチンで料理中に、ジムでエクササイズした後に、夜、読書の途中にチョコレートをつまむというコンセプトで、仕事中に人目を盗んでこっそりチョコを食べるという何ともお茶目な姿、ジムで汗を流すセクシーな姿、メガネをかけて読書というメガネ姿が15秒に収められ、瞬く間に話題を呼び、ワイドショーなどでも取り上げられた。
もともとイケメン人気シェフとして注目されていたが、さらに人気を集め、もはや素人である私がアボーノで一緒にランチをしていたことが、不思議に思えた。
「クライアントから電話だから、ちょっと外す。」
そっと耳打ちすると、仁は私たちから離れた。
「あ、じゃあ私もちょっとどっか行っとこうかなー?」
千秋がニヤニヤしながらわざとらしくいうと、ルカの隣に突然庄司さんが現れた。
会うのは初めてだが、テレビで何度も顔を見たことがあるから瞬時にわかった。
「はいはーい、皆さん!
後でルカさんご挨拶させていただきますからね。
そんなとこ固まらないで、この空間を楽しんでください!
ったく、セキュリティーガードどーなってんの?
で、何?
ルカちゃん、こんなとこで若い子ナンパ中?」
周りの人たちは「庄司さんだ!」と騒ぎながも、庄司さんが手を払う仕草に、言われた通り散っていった。
「理沙、この人!
庄司さん!!」
庄司さんのファンだという千秋は、興奮のあまり叫んだ。
「りさ?
もしかして、この子が例のりさちゃん?」
「庄司さん、あの」
「例の理沙ちゃん?」
ルカと千秋が同時に反応するも御構い無し、庄司さんは続けた。
「なるほどねぇー。
ちなみに、あっちのリサちゃん、相当しょげてたよ?
ルカちゃんモデル好きかと思ったけど、こういう子もいけちゃうんだー。」
上から下までなぞるように見られ、どういうことだかわからない私はただ固まったままだった。
「庄司さん。」
制するようにルカが庄司さんの両肩を持ち一歩下げると、今度は千秋の方をじろっと見た。
「あ、君見ない顔だねぇ。
どこの事務所?」
「諸川さんとおっしゃるそうです。
2人は同じ会社の同僚です。」
「私、庄司さんの大大大ファンなんです!」
早速アピールすると、昔の庄司さんの番組を熱弁する千秋を気に入ったらしく、「ちょっと時間あるからあっちでゆっくり話そうよ。ルカちゃんも理沙ちゃんと2人きりがいいだろうし。」と、千秋の肩を抱きながら別のところへ行ってしまった。
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