364人が本棚に入れています
本棚に追加
「Shoji san said we can go to his house in Shonan!」
相変わらずのテンションだが、千秋はルカにもわかるように、ゆっくりと英語で話した。
「That’s great. (いいじゃん。)」
私とルカも含まれているということも、多分わかっているのだろうけど、仁はあっさりとそう返した。
ルカは近くにいた人に話しかけられ、そのまま私たちから離れていった。
デートに誘おうと思ってたとか、私といるとハッピーだとか、さっきのまっすぐな眼差し。
ブラウンのような、ヘーゼルカラーの、吸い込まれてしまいそうな程に綺麗な瞳。
一瞬ふわっとした気持ちになりそうになったものの、やっぱりこの時は、それが私だけに向けられたものだと思わなかった。
世間に名が知れ渡っているような有名人が、こんなごく普通な私に恋心を抱くなんて、まずあるわけないと信じ切っていた。
照れてる感じはしたものの、ルカのことだから、きっと女性を口説くのも慣れてるだろうし、特別な感情があった上でというよりは、コミュニケーションの一環に近いような感じ、きっとそうだと思っていた。
惑わされそうになっている自分がむしろ恥ずかしい。
頭から振り払うと、もうそれ以上何にも私には残っていなかった。
なのに。
「それにしてもルカ、やっぱすんごいイケメンだね!
あのオーラ、普通には出せないよ。
あんなモデルみたいな一流シェフ、いるんだねぇ。
あの理沙に向けた笑顔、絶対脈ありだよ!
あれだけ女に囲まれながらも、もう理沙以外は見えてない、そんな感じに見えたんだけど。
ねぇ仁?」
私たちの関係を何も知らない千秋は、興奮冷めやらぬまま仁に投げかけた。
「そだな。」
「だよね?!
なのに、親近感持てるし、接し方も紳士じゃなかった?
いいなぁ理沙。
私もあんな人に抱かれてみたーい!」
茶化し続ける千秋の反応に困っていると、仁は持っていたワイングラスを飲み干し「ちょっとおかわりとってくる」と、一人でさっと私たちから離れてしまった。
なんだか、気まずい・・・。
「もう、人が話してんのに。
私はなんだか今日はお酒回るの早いわ。
お水もらいに行こっ。」
結局、仁の後を追うように私たちもバーカウンターへとやって来た。
カウンターにも人が沢山集まっていて、千秋は人混みを掻き分けるようにバーテンダーがいる前へと向かっていた。
私は、仁の後ろ姿を見つけると側に行き、カウンターに目を向ける仁の横顔をちらっと見た。
何、考えてるのかな・・・。
切なそうな表情をしてる気がするのは、私の思い過ごしかな。
こうやって、凛とした横顔を隣で眺められるのも今日でしばらくお預け、か。
視線に気がついた仁に、私もさっき仁がしてくれたみたいに笑顔を見せた。
すると、腰にぎゅっと手が回され、思い切り仁の方に引き寄せられた。
時々やってくる、仁の大胆な行動。
でも、今は私もくっついていたくて、ただされるがままに、仁の体温を少しだけ感じていた。
「こっち見て。」
見たら、顔と顔がくっつきそうな距離になるのはわかる。
でも、ゆっくりと視線を向けると、さらに腰に巻かれた手に力が入れられ、そのままそっと唇が重ねられた。
周りに人は沢山いるけど、みんなそれぞれにその時間を楽しんでいて、私たちのことを気にしている人は、いないかな。
この空間も素敵だけど、今日は早く2人になりたい。
仁は私に空いてる時間をいっぱいくれたし、一緒に過ごした時間に、不満も後悔もない。
でも、あと少しだけ、仁を独り占めしたい。
・・・ダメダメ、しんみりしない。
一緒にいれる時間、楽しまなきゃ。
最初のコメントを投稿しよう!