※30、雨落ちれば

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バーテンダーのお兄さんが「お待たせしました」と白ワインをテーブルの上に置くと、仁は腰に置いていた手を離し、それを取ろうとするのと同時に、すっと別の手がその白ワインに伸びてきた。 仁とその人が顔を見合わせながら互いに譲り合うと「あ、木戸さん?」と仁が言った。 相手の女性がキョトンとしていたので、仁が随分前にコスメ展示会会場でご挨拶したことがあると説明を加えると、「あぁ、星野さん!」と思い出したようだった。 私と水を取ってきた千秋にも挨拶を交わしてくれ、ニコッと笑うと八重歯が見えて可愛いらしい印象を受けた。 オーガニックコスメの商品企画とPRを兼任しているらしい。 木戸さんは仁になかなか商談の時間を取れないことを詫びると、仁は明日からLAに行くことを伝えた。 「だったらそっちの方が時間を取りやすいかもしれないです! 本社がロスにあって、そっちに出張行くことも多いんです。」 まさに仁がLAとのリレーションを築いて、これから取り込んでいきたいような企業。 LAに行く時は連絡するので、ぜひご飯でもしながらお話しましょうー。 そんな言葉と可愛い爽やかな笑顔を残して、木戸さんはバーカウンターを去った。 出張も頻繁で業務を兼任してるってことは、きっと仕事も良くできるスマートな人なのだろう。 仕事帰りなんかに会って、2人で美味しいものでも食べながら会話が盛り上がったりして、お酒も進んで、いい感じになっったり・・・。 あぁ・・・考えない考えない。 そんなこと、今考えたって仕方ない。 「ちょっと仁ー。 あの人綺麗だし、いいじゃんー。 LAでもうデートする相手見つけたね。」 千秋の言葉は、私の心にズキズキと沁みた。 なんだろう。 最後の夜なのに、色んな不安が募ってしまう。 これからの私たちでも、拭っていくことはできる、よね・・・? 遠い視線の先で、テレビや雑誌でよく見る芸能人やモデル、煌びやかな人達に囲まれながらも、楽しそうに談笑しているルカは、やっぱり自分とは別世界にいる人だった。 もっと近づきたいなんて、そんなこと出来ると思わなかったし、これっぽっちも考えていなかったのに。 私には仁しかいない。 本当にそう思ってた。
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