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by 仁
ホテルのエントランスに入ってきた理沙が、俺に気づき小さく手を振りながら微笑んだ瞬間、体中がぶわっと熱くなった。
いつだったか、クライアントとモデルのドレスを検討していた時、グレーのドレスは着こなし、デザイン、着る人によって老けたり古く見えることがあるから難しいんですって言っていた。
でも、上手く着こなすとすごくお洒落なんですよって。
それが今日の理沙。
理沙の体型にぴったりなのか、ドレスのラインが綺麗に引き立ち、歩く度に揺れるスカートまでも美しく見え、清楚なのに、どこか色っぽい。
サイドが編み込みのハーフアップは、毛先だけ緩く巻いたらしく、いつもよりちょっとだけ赤めのリップに、目が釘付けになりそうになる。
キスして、そのまま、溶かしたいー、そんな妄想をしてしまうのはさっきの隆史のせいにしておいて、爽やかな振る舞いを心掛けろ、俺。
「今日は私たち色被ってないね。」
何この笑顔。
俺マジデキュン死ニスル。
ヤメテ、カワイスギ。
「なに、そんな笑わなくたっていいじゃん。」
違う。
可愛すぎてクラっときてて、場違いな妄想を掻き消そうとしてるだけ。
でも、そんなこと言ったら気持ち悪がられるから、言わないで自分の中で今、必死に葛藤してるんだよ。
男なんてそんなもんだって、まぁ多分理沙は知らないんだろうな。
それでいい。
男の素性なんて、君は知らないほうがいい。
諸川よりもちょっと早めに待ち合わせをしたのは、理沙の今晩の荷物を預かるためだった。
預かった荷物を部屋に持って行きながら、この部屋で2人きりでゆっくり時間を過ごせるのかと思うと、テンションが上がると同時に、これが最後の夜かと思うと、どうしても複雑な気持ちは拭えない。
ロビーに戻ると、ちょうど諸川もロビーに着いたところだった。
この女子2人と出掛けると、必ず感じるものがある。
それは、周りにいる男の突き刺さるような視線。
俺がいることで、声を掛けたくても掛けられない、要は、俺は邪魔な男。
しかし、今夜の視線の量は、半端ない。
諸川を目で追ってる男の多いこと、それに、その隣を歩く理沙に気づき、今度は理沙のことを目で追い始める奴。
しかも、今夜は理沙をハンティングモードで見てる男が多いのは気のせいか?
こんな時に、和田さんの『いい女がフリーなら、周りの男は放っておかない』という言葉が蘇るから、焦る気持ちを隠せなくなる。
ちょっと、そんなプールばっかり見てないでこっち見てって、指先に軽く触れてみる。
そして、指先をそっと握ってみる。
今こういうことが許されるのは俺だけ。
だからお前ら、エロい目で理沙のこと見るなっ!
って思ってたら、本物のイケメン登場。
実物、わーお、さらにイケメン。
キラキラした爽やかな笑顔が眩しすぎる。
そして、この理沙を見つめる視線ー。
瞬時に、脳内で情報が高速処理されたかのように、俺はその場をそっと離れることにした。
離れたところから客観的に理沙とカフェ教師を眺め、自分の気持ちさえもこの時だけは蓋をし、2人が笑顔を向け合いながら話している姿を見守った。
この時だけは不思議と、嫉妬心どころか、楽しそうにカフェ教師と話している理沙を見て安心した。
なのに、諸川が、庄司さんと別荘旅行の約束をしたとか、いーなー理沙、私も抱かれたーい、とか言い出して、本心の俺がカッコつけようとしてる俺をぽーんと蹴飛ばした。
わかってる。
わかってたことだし、それを望んだのは俺。
でも、今夜は違う。
絶対誰にも渡さない。
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