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「あ!私この曲好きっ!
仁、踊り行こっ!
理沙も来る?」
ダンスフロアに行くなり、クラブミュージックの超ド定番だけど絶対盛り上がるお決まり曲が流れていて、諸川は俺の有無など聞かず、首を振った理沙を端に残し、俺の手を掴んでフロアの人混みの中に連れ込んだ。
てか理沙をひとりにしとくんかよ?
フロア混みすぎて理沙の姿見えにくいし。
いや待て、あれひとりだったら絶対男来るじゃねぇか。
・・・でもここで諸川に下手に、いや、理沙ひとりまずくね?とか言うと勘付かれそう。
でも絶対理沙から目外さないし、男とか来たら速攻飛んでって払ってやる。
・・・あ、そんなこと、しないほうがいいんだっけ。
俺は明日からLA。
理沙は、明日からはいない。
「ねぇ仁!
この後ホテルの部屋行ってい?!」
爆音だからなんか叫んでるけど、聞き間違いだよな?
聞こえないって顔して見ると、今度は耳を引っ張られ同じ言葉を繰り返された。
冗談にしては諸川らしくなく、相当困惑した顔で睨んでたんじゃないかと思う。
「いいじゃん!
もうしばらく会わないんだし!
最後の東京の夜に私をあげる!」
ビートに合わせてに踊ったままだし、このノリの意味がよくわからん。
「何言ってんのお前!?」
互いに叫び合いながら会話を続ける。
「あんた、会社の女子にひとりも手出さなかったんでしょ?!」
俺の動きがピタリと止まった。
「みんな玉砕させて!
男子社員が抱きたい女子ナンバーワンの私が、誰にも抱かせないエリート男子の相手になってあげるって言ってんの!」
確かに周りの男どもはこぞって諸川さんは女子アナ級とか言ってるけど。
ってかなんでみんな玉砕させてとか知ってるんだ?
実は、LA赴任が決まってから、希美ちゃんを皮切りに、送別会だのなんだの、色んな女子社員から攻め寄られたのだった。
最近の女子は肉食系が多いとか聞くけどまさにそれで、中には仕事中資料室に呼び出され、大胆にもベルトに速攻手をかけてきた子もいて、実は誰にも言えないながらも、本気で恐怖すら感じていた。
でも、なんでそれを諸川が?
「俺ってハメられてたのか?!」
そう言うと諸川は爆笑しながら首を振った。
「そういうわけじゃないけど、仁ってうちで出世コースの波に乗ってるのに彼女いないから、元々みんなタイミングを見て狙ってたんだよね!
仁がいなくなるって知って、あっという間に女子の間で、誰が仁に最初に抱かれるか、みたいなのが始まったの!
そしたら想定外にあんたのガードが固くて、それがむしろ評価を高くして、みんな本気になっちゃって火が付いちゃったの!」
酔った勢いで甘えてこられそうになったら、すぐに席外した、帰り道くっつかれそうになったら、クライアントからの偽着信でひたすら偽会話して駅に向かった。
「キスどころか触れさせすらしないってみんなぶーぶー言ってたんだから!
でも、そんな男だからこそ、特別に私を抱かせてあげる!」
相変わらずの上から目線だけど、これどこまでマジで言ってんの?
「無理!断る!」
冗談か本気かわからないが、諸川だって俺が抱くわけないこと位わかってるはずだろう。
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