第1章

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「伯父さまとの愛に生きる」 東山はるか  わたしの伯父さまはもう六十歳ですけど、とっても素敵な方なんです。国立大学の法学部で長らく教鞭をとられ、退官後は弁護士として活躍している法曹人です。わたしも弁護士志望なので、伯父さまの事務所で事務のアルバイトをしています。  よく、研究室に残った友人に言われます。 「女が身内の男性に惹かれるのは、父親をうしなった代償行為よ」と。  つまり、わたしは幼いころに父を失ったので、その代償として伯父さまを慕っているのだと、彼女は言うのです。それはそうかもしれない。いつのまにか、わたしは伯父さまを男性として意識してしまっていました。  父が若くして亡くなったとき、母を弟子筋の弁護士の事務所に雇うよう取り計らってくれたばかりか、まだ小学生だったわたしが弁護士になりたいと言うと「弟の代わりに、わたしが責任をもって大学まで出してやろう。その代わり、しっかり勉強するんだよ」と言ってくれたのです。  いらい、わたしは遊びや恋を犠牲にして、勉強に打ち込んできました。司法書士の資格を在学中に取り、いまは司法試験に向けた勉強のかたわら、伯父さまの仕事を手伝っています。すごく充実した日々です。将来は弁護士として伯父さまといっしょに仕事に励みたい。そんな夢は、あと一歩のところまで来ていると感じます。  そんなわたしにも悩みがあります。悩みというべきなのか、それとも自分の思いを貫くべきなのか、迷いと言ったほうがいいのかもしれません。  わたしは、伯父さまと男女の関係になってしまったのです。いいえ、わたしのほうから望んだことでした。  大学を卒業したあと、法律家養成の法科大学院に進むべきか大学の研究室に残るべきか悩んでいたわたしに、伯父さまはためらうことなく「わたしの事務所に来なさい。いまは共同事務所に同居だけど、いずれ事務所も独立したい。ついては、事務をやってくれる人が必要なんだ。由梨の力を貸してほしい」と言ってくださいました。 「由梨が司法試験の勉強を優先したいなら、電話番の仕事だけでもいいんだよ。まぁ、現場の雰囲気に慣れるだけでも、研究室や法科大学院にいるよりはずっと意味があると思うよ」  伯父さまのご厚意に甘えることにしました。これいじょう母に負担はかけられませんし、尊敬する伯父さまの仕事を手伝えるなんて、ほんとうに夢のような気分でした。
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