episode 11 ネズミたちの来襲

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 般若から姫へと変貌したはずが、越川の心が完全に自分から離れてしまっていることに気づいたのだろうか。加織は溶けてゆく蝋人形のように、ぐにゃりと顔を歪ませる。 「悟……」  うわ言のように越川の名を呼び、力の抜けた足取りで加織は高価な酒の並ぶ棚へと歩み寄る。無言でシャンパンボトルのコーナーへと手を伸ばすや、その内の一本を容赦なくつかみ取った。 「それ、一番高い瓶……!」 「大失恋したんだもの、酔いたい気分なのよ。後で請求しましょ」  うろたえる新人黒服の隣で、なぜか訳知り顔のレミが頷く。シャンパンボトルを高々と持ち上げた加織は、一気にラッパ飲みを━━するのではなく。 「死んでやる!」  力の限りカウンターの角に打ち付け、中身が飛び散るのも構わず叩き割った。 「バカ、もったいない!」 「そんなことより、器物破損! 業務妨害! 警察呼んで!」 「その前に、ママに連絡!」  パニックになる店内で、加織が鋭利な破片を自身の喉元へと突き立てようとした瞬間。  再びエントランスドアに人影が現れた。 「今度は誰!?」 「あいつ!」  ユウキとマリが、同時に叫ぶ。 「ネズミ男!!」  砂織に襲いかかり、飛び蹴りの制裁を食らった腹いせにユウキに殴りかかったネズミ男。このタイミングで、最もお呼びでない男がパニック状態の『涼』へ現れた。 「俺を蹴ったネエちゃん、出てこいや!」 「お前もかよ。ていうか、今は手一杯なんだよ!」  速攻でユウキの飛び蹴りを背中に食らったネズミ男は、名乗る間もなく床に倒れ伏した。  直後にクラブ『涼』の重厚な玄関扉は、ギィィ……という野鳥の鳴き声のような音を鳴らしながら三度目の開帳を見せる。その瞬間、フロアに並んだ全員が合唱した。 「涼子ママ!」
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