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背中の大きく開いた青いドレスをストンと足元に脱ぎ置くと、砂織はシンプルな白いシャツとデニムパンツに素早く着替えた。
「パーカー、どこのブランドですか?」
上着を羽織った瞬間に背後から声をかけられ、結い上げた髪をほどきながら振り向く。先週入店したばかりのユウキが、屈託のない笑顔で立っていた。
「このネズミ色のパーカー? 量販店のセール品だけど……」
「ネズミ色って。グレーって言ってくださいよ、サオリさん!」
口元を押さえケラケラと笑うユウキは、そのうちに腹を抱えて崩れ落ちた。おかしくて堪らない、という気持ちを全身で表現する舞台役者のように。
「サオリさんも行きませんか」
ユウキから誘いをかけられるも、肝心の目的語が見当たらない。
「どこへ?」
「聞いてなかったんですかぁ」
尋ね返す砂織に間髪入れず、さも自分には落ち度がないと言わんばかりに彼女は甘えた責め口調をぶつける。そんな技を使えるところも、いかにもイマドキな若者らしいと感心しつつ「ごめんね」と砂織は頭を下げた。
一応謝ってみたものの、会話の輪に入った覚えもなければ、蚊帳の外の話に聞き耳を立てるほど他人に興味もない━━というのが本音だったのだけれど。
ほんの数秒、思いを巡らせる砂織の顔色など構わず、クイズの正答を発表するかのごとくユウキはキッパリと言い切る。
「カラオケです。レミさんたちと」
着替えに専念していた年長者のレミは、独断で砂織に声をかけるユウキにパンストを丸めながら慌てた様子で間に入ってきた。
「サオリちゃんは、ルナちゃんのお迎えがあるのよね?」
「ルナちゃん?」
人差し指をあごに当て、ユウキは可愛らしく首を傾げる。集客力を買われ、他店から引き抜かれた実力者だけのことはある。あどけなさの残る顔立ちを武器に、生まれながらに愛される仕草を身につけている女の子。
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