35人が本棚に入れています
本棚に追加
この世界で生きるには、自己演出の裁量も大きく左右されるのだ。出る杭となって、打たれ折られないように。
若いながらも自身の魅せ方を知るユウキに感心して黙りこみ、肝心の質問に答えようとしない砂織に痺れを切らしたレミが口を添えた。
「ルナちゃん。お嬢さんよね? 確か、五つになる……」
「ええ」
「だからサオリちゃんは、アフターもしないし、親睦会も参加できないの。でしょ?」
「ええ」
「そういうことだから。私たちだけで行きましょ!」
配下にある女の子たちを囲い込み、ずいずいと砂織から遠ざけるレミに砂織は内心ほっとしていた。邪険にされる方が、ありがたい。誰とも徒党を組む気などないのだから。
日々の暮らしが賄えれば、それでいい。
そんなスタンスの自分を「変わり者」と周囲が揶揄していることも知っている。たいした働きもせず、けれど常に売り上げの中間順位をのらりくらりとキープしていることをレミが快く思っていないことも。
興味がなくとも、他人の心の内は充分に肌で感じとれるものだ。あからさまな態度に全く傷つかないわけではないけれど。
営業用のドレスと遜色のない派手な私服に着替えたレミ一派のホステスたちは、これから一稼ぎするのかと思うほど、念入りにメイクを直し始めている。砂織は彼女たちに軽く一礼すると、一足早く職場であるクラブ『涼』を後にした。誰にも見つからないように、ネズミ色のフードを深く被りながら。
最初のコメントを投稿しよう!