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「どういう手段で客を呼んでるんですかね、サオリさんって……」
やたらと内装の派手なパーティールームの一室で、マイクを占有するレミを横目にユウキはつぶやく。手にしたタブレットリモコンの扱いには慣れたもので、一手に引き受けた同僚たちのリクエストは瞬時に入力し終えていた。
投げかけた疑問に対するレスポンスが皆無なのと手持ちぶさたなのとで、仕方なく関心のないカラオケ動画を見入ることに専念しかけたユウキの隣へ尻を寄せてきたのは、同じく一ヶ月前に『涼』へ入店したばかりのマリだった。
ジリジリと距離を詰めるや、サクランボの茎が結べるのだと自慢する長い舌を差し入れんばかりに近づき、耳打ちをする。
「サオリさんのことが気になる?」
「だって、全然営業熱心に見えないし。お世辞にも社交的とは言えないし。見た目も、何て言うか……」
「地味、だよね」
「だけど、一定の顧客はつかんでる」
ユウキとマリだけの会話のはずが、カラオケの音量に負けじと声を張るうちに二人以外の女の子たちも耳を傾け始めた。視線だけは画面の歌詞を追い、おざなりな手拍子を送りながらサオリの噂話で盛り上がる取り巻きたち━━という面白くない状況に気づいたレミは、間奏の途中で唐突に演奏をフェイドアウトさせ、マイクを通して乱暴に吐き捨てた。
「枕でもやってんじゃないの?」
水を打ったように室内が静まり返った理由は、ここにいる誰もが一度は身に覚えのある禁じ手だったからかもしれない。
沈黙を破ったのは参加者の誰でもなく、配信待ち曲のイントロだった。タイトルが画面に現れるや、レミは烈火のごとく怒りをこめた表情で、太客を横取りされたかのごとく怒号を上げた。
「誰よ、私の今井美樹を入れたのは!」
「あ、アタシでーす」
悪びれた様子もなくタブレットリモコンを片手に真っ直ぐ挙手をしたのは、他ならぬユウキだ。
「『プライド』はラストに取っておいたのに。若い子はAKBだかLSDだかでも歌っときなさいよ!」
「これ、レミさんの十八番なんですね。気が合いますね。ちなみにAKBの選曲も若くはないですよ。『アタシは今~♪』」
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