第1章

2/8
20人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
「高校生の甥を誘惑して」 東山はるか  もともと、やおいが好きな少女時代から、美少年を理想の王子に描いてしまう妄想が、私のひそかな愉しみであり悩みでした。わざわざ悩みとしたのは、私がアラフォーのパラサイトシングルだからです。  八十になる父からは「女ばかりの場所で働いても男は見つからんぞ、スーパーなんか辞めて、男がたくさんいる町工場で事務のアルバイトでもやればいいんだ」と言われることが多く、私自身も結婚願望はあるのに果たせないのです。  それがマンガや小説だけでなく、現実の美少年への憧れにあるとわかったのは、甥・真也クンとの一件でした。真也クンは兄の長男で、今年十七歳になります。私とはちょうど二十五歳も違うことになります。  真也クンはラグビーをやっているスポーツ少年なんです。彼の両親、つまり私の兄夫婦が旅行に出たとき、 「真也が足の骨を折ってるでしょ。悪いけど、二日ほど来てくれないかしら、ええ」  と兄嫁から彼の面倒をみるよう依頼されたことで、彼と親しくなったのでした。  何しろ脚の怪我でトイレを使うのもやっと、食事は放っておくと店屋物ばかりになってしまうし、まず兄夫婦の旅行の初日(金曜日)は学校までクルマで迎えに行ってやらなければなりません。わたしは快諾しました。  理想化された少年に憧れる、あるいは可愛い少年に夢中になってしまうのを、ショ太コンプレックスと言うのだそうです。少女の騎士願望とも、母性愛の形を変えたものだとも言われますが、たぶん私には胸がせつなくなるような恋なのです。真也クンが小学生高学年のころから、そんな思いが尽きないわたしは少年に恋する女だったのです。  四時までのパートが終わると、私はいつも父を病院に送り迎えするクルマで真也クンを迎えに行きました。  建物も風景も変わってしまったけれども、私も二十五年前に通った高校です。胸キュンの気分とともに、私は高校時代にもどったような気がしました。  だから、真也クンが松葉杖を突きながらクルマにやって来たときに、私は言ったものです。 「愉しいわぁ、ここ久しぶりなのよ。来週も迎えに来てあげようか」 「え、本当。嬉しいな、ママは先生に会いたがるから、こっちも困ってさ」 「ふふ、母親はそういうものよ。いつまで経っても、息子が赤ん坊みたいに見えるのよ。」
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!