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その夜は雨が降っていた。
空から降り注ぐ恵みの雨のはずのそれは、目の前の赤子の体から生を奪っていく。
――私の家の前は託児所ではないというのに。
名前すらわかるものはなく、ただ窮屈そうな箱に入って、それは棄てられていた。
別に珍しいことではない。箱に入っているのは赤子を棄てる罪悪感からの行為だろう。自分が生んだ赤子を棄てる、その行為がどれだけこの子を傷つけるか知らずに。いや、知っていてこうしているのか。自分が逃げるために。
それにしたってこんな辺鄙な森の中の一人暮らしの男の家の前に置かなくてもいいのではないか。
そして何より――決まっているのだ。この世界で棄てられる子の多くは『羽無し』だということは。
抱きかかえてみると驚くほど軽く、それでも必死にしがみついてくる。生きるための本能だろうか。私の指を握りしめて離さないその小さな手は、少しだけ怠惰な私を動かした。
「……流石の私も乳は出んからな、どうしたものか」
ミルクならあっただろうが、そもそも子育ての経験すらない自分にこの赤子を育てることができるのだろうか。
「こういう時は――困った時の友人頼みだな」
一人結論を出して、端末を起動し「エアリーに繋いでくれ」と声を発する。端末の画面にはairy callという文字が浮かんだ後、しばらくしてやかましい声が端末から聞こえてきた。
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