四、

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 変わらない綺麗な声、やわらかな物腰。ここにいるのは康助のよく知っているいつものなみだ。じっと見つめていると視線が合った。なみは何かに気付いたように、康助の前にやって来た。 『康助君、手を――』  言われるまま差し出した右手に、なみの小さな手が重なる。実際に触れられた訳ではないのに、一瞬温もりを感じた。でも、何をされたのかは分からなかった。  次になみは高柳に近付くと、その頬を両手で挟み込んだ。左頬は満月によって大きなガーゼで覆われている。 『・・・許して。こんな怪我をさせるつもりじゃなかった』  すると、高柳が恐怖に近い表情で、ジリッと一歩後ずさった。 『いつも、どうしても力が足りないの。本当にごめんなさい』 「やめるんだ、なみ」 『だけど・・・』  高柳にはなみの手を振り払うことも、頭を振ることもできない。なみの手はあまりに近くて、下手に動けば触れてしまう。いや、触れられないことを知っているからこそ動けなかった。 「頼むから――やめてくれ!!」  逃げ場がなくて高柳がとうとう大声を上げても、なみは言い募るだけだった。 『だけど、秋・・・』  泣き出しそうななみの顔が、そこで突然揺らいだ。体の輪郭も、幾重にもだぶるようにぼやけ歪んでいく。  隣で一部始終を見ていた康助は、嘘だ・・・と思った。疲れていて目が錯覚を起こしただけ。そう思いたかった。     
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