五、

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 原田の方でもまさか鉢合わせるとは思っていなかったらしい。門の前でチャイムを鳴らそうとしていた指もそのまま、驚きに固まっている。 「お前、こんなとこで何やってんだ?・・・サボリか?」  私服の原田を見て、康助の口からは咄嗟に一番正直な感想が漏れていた。原田はあからさまに不機嫌な顔付きになり、眉間に皺を寄せた。 「言っとくけど、今日は祝日で学校は休みだ。平日だとしても、もう夕方だからな」  とても嫌そうに、けれど懇切丁寧に説明されてしまった。高柳にも注意されたが、康助はかなり日時の感覚がずれてきている。 「そんなことより、お前に話があって来た。――分かってるとは思うけど、秋のことだ」  低い声で、澱みなく言葉が続けられる。 「あいつに何か起こってるのは知ってる。何も言わないけど、笑ってるけど、様子がおかしいことには気付いてたんだ。どうしたって聞いてやりたくて・・・、俺は聞けなかった。今の俺は、情けないけど自分のことで手一杯で、あいつの力になってやれない。話を聞いてやる余裕もない。何でも抱え込んじまう奴だって分かってて、ずっと見て見ぬ振りをしてきたんだ」  苦い表情を見せたかと思えば、原田はキッと康助を睨み付けてくる。     
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