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「だから、今更俺がこんなこと言えた義理じゃないのは分かってるけど、それでもお前が秋と一緒にいるって知った時、マジ頭にきた。何でそんな奴がそばにいる。そこは俺の場所だろって。今だってそう思ってる。けど・・・今だけ譲ってやってもいい。今だけなら任せてやってもいい。俺はお前が嫌いだけど、秋には必要だっていうなら、お前を信じてやるよ」
高飛車な態度もここまでくれば感心こそすれ腹も立たない。原田は本音をぶつけてくれている。
「その代わり、裏切ったら承知しない。もしも途中であいつを見捨てるような真似したら、その時はただでは済まさないからな!」
瞳に力を込め、ビシッと康助を指さした。
「言いたかったのはそれだけだ。・・・じゃあな」
原田は自分の言いたいことだけ言うと、くるりと背を向けた。
「じゃあな――って、おい!」
自転車の音が聞こえて、康助が門の外へ追いかけた時には、もう姿は見えなかった。康助の言い分なんて一切聞きもしないで、開いた口がふさがらないとはまさにこういう状態を言うのだろう。
きっと今の原田は、本当に自分のことだけで精一杯な筈だ。情けないなんて言葉がどうしたら出てくる。それでもこうしてちゃんと人を思いやれるのに。
――俺はお前が嫌いだけど。
面と向かって言われた、ほんとなら傷付くだろう筈の言葉さえ、ちょっとかわいく思えてくる。高柳が使った時には信じられなかったが、今なら分かる気がする。
(俺は、嫌いじゃないかも・・・)
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