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康助の剣道歴を知っているのは、ここでは家族と担任の安岡くらいのものだ。特に隠していたつもりはないが、辞めた理由を詮索されたくなかったのも事実だ。それがまさかばれているとは思わなかった。あれだけ見つめられたらと、ニーニャは笑っているかもしれないけれど。
正直に言うと、何か身を守るための道具がほしいとは思っていた。だから昨日自宅へ帰った時、竹刀を持ち出そうか悩んだ。やめたのは祖父の顔を思い浮かべ、どう言い訳しても後ろめたいと感じたからだ。非常時でも、やはり使ってはいけない気がした。第一、竹刀一つでどうにかできる事態でもない。
『康助君なら使えるから、何かの役に立つかもしれない。お守りだと思って受け取ってって』
なみがニーニャの言葉を代弁する。
これはなみと深く繋がっている、ニーニャの言わば分身だ。確かに役に立つかもしれない。そういうことならきっと祖父も大目に見てくれる。都合よく考えて、有り難く受け取ることにした。
「ありがとう、ニーニャ」
サラサラと緑の葉が揺れて、どういたしましてと言ってくれているようだった。
「・・・俺にもニーニャの声が聞こえたら良かったのに」
呼ばれているように感じるのは、康助自身の思い入れによるものに過ぎない。分かっていてもふと思う。もしもニーニャの声が聞こえたなら、どんな声でどんな風に話すのだろう。なみみたいな綺麗な声だろうか、と。
康助の呟きに、なみは不思議そうに首を傾げた。
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