五、

12/14
前へ
/205ページ
次へ
『そうね。ニーニャには分かるのかもしれない。同じように片思いをしている人の気持ちが。ニーニャの声を聞いたり、受け取ることができるのは、いつもそうしたどこか淋しい人達ばかり』 (うわー・・・)  自分で聞いておきながら、康助はあまりの恥ずかしさに片手で顔を覆った。本当にもういろいろばれすぎている。くすっと笑うなみの声と、ニーニャの葉音がやさしく重なって響いている。 (・・・もうすぐなくなるんだな)  なみもニーニャも、このやさしい空間の丸ごと全部――。  失う痛みを知っている。この手には何の力もないことも・・・。奪うなとどれだけ叫んでみたところで、不法侵入しているだけのただの高校生だ。 『私ね、最期の瞬間までニーニャのそばにいたかった。守れなくても、せめて一緒にいたかった』  なみが小さな手を伸ばして、ニーニャの幹に触れる。そのままそっと額を当てた。 『ずっと甘えて、助けてもらってばかりで。・・・何も返せないままなのが心残り』  なみは、先に消えるのが自分だと確信しているかのようだった。 「まだだ、なみ。まだ何も終わってないだろ!?」  康助は即座に反論した。が、 『康助君、もうすぐよ。次が最後。どんな結果になっても私は消える』  なみの言葉は予言めいていた。 『だから、秋を・・・お願いね。いつも平気そうな顔をしてるけど、秋もほんとは弱くて、とても淋しいの』     
/205ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加