六、

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六、

     十一月五日(水曜日)  家を出ようと準備をしていた時だった。いつものように持ち込む荷物を玄関に揃えていると、メールが届いた。桐仁からだった。  ――今から部屋に入る。もう君達を巻き込まないつもりだったが、すまない。もしもの時は満月を頼む。  随分悩んだのだろう。桐仁がためらいながら、部屋の前まで来て最後にやっと送信したのが手に取るように分かる内容だった。  読み終えるやいなや高柳と康助は顔を見合わせ、玄関を飛び出した。  仕事を終え帰宅した桐仁は、血相を変え駐車場に向かおうとする満月と鉢合わせたという。何があったのか聞くと、満月は「那巳が呼んでる」と言った。助けを求める声が聞こえたのだ、と。  桐仁は、直感的に罠だと思った。あの部屋は、どんな手を使ってでも満月を呼び寄せようとする。  だが、満月は聞かなかった。泣きながら、ただ行かせてと懇願する。冷静な状態ではなく、止めるのは無理だと判断し、桐仁も同行することを決めたようだった。     
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