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康助はもっと早く連絡してくれればと、内心舌打ちした。そうしたらアパートの前で待って、一緒に説得することだってできた。満月がどうしてもと言うのであれば、部屋へは全員で入るべきだ。
桐仁の気持ちは有り難いが、自分達はもうとっくに巻き込まれ――いや、自ら首を突っ込んでいる。
途中何度電話しても、満月にも桐仁にもつながらなかった。圏外か電源が入っていないことを告げる、おなじみのアナウンスが流れただけだ。見覚えのある車の周囲にももう姿はない。
満月の部屋のドアは、今度は簡単に開いた。呼びかけても返事はなく、中は静まり返っている。暗闇の奥で待ち構えられているような不気味さに、背筋がゾクリとした。
高柳が入るぞと目線を送ってきたので、ニーニャの枝をぎゅっと握り直して康助は頷いた。家を出る時、これだけは忘れず持って来たのだ。
ゆっくり慎重に玄関に足を踏み入れる。背後でパタンとドアが閉まった瞬間、足元が崩れてなくなるような感覚がして――闇に落ちた。
「あ、れ?ここは・・・?」
頬に触れる空気の冷たさに、康助は意識を取り戻した。俯せに倒れていた体を起こしても、闇が深くて上下の感覚さえあやふやだ。真っ暗な世界には何も見えない。
「高柳、どこだ?・・・いるのか?」
不安に駆られて名を呼ぶと、すぐそばで気配がした。
「・・・ああ。俺も今気が付いた。康助、無事か?」
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