六、

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「ああ。無茶しちまった。・・・折れないでよかった」  ニーニャは助けてくれるが、無論万能ではない。どこかで当てにしてしまった自分を康助はすぐに反省した。  だが、そうした働きかけは別の結果を招き寄せた。周囲を取り囲むように、無数の気配が動き出したのだ。ざわざわと蠢いて迫ってくるのは、蛇のような黒い触手の群れ。二度と対面したくなかった、歓迎できない団体様だ。悪寒で全身が総毛立った。  球体を背に追い詰められていく二人の頭上から、声は突然降ってきた。 「安心して。満月も桐仁君も生きてるわ」  とてもよく知っている、澄んだ声が響く。振り仰いだ上空に、一人の少女が現れた。 「・・・な・・・み?」  名前を口にしてみたが、康助は困惑の表情を浮かべた。白いワンピース姿で、長い髪を揺らして――。姿形は確かになみなのに、違うのだ。  まるで時間を巻き戻したように、康助が出会った頃の姿に戻っていた。そして何より、少女には手を伸ばせば触れられそうな確かな存在感があった。 「君は・・・誰だ!?」  高柳もひどく警戒している。触手が左右に別れて場所を空ける。少女は宙に浮かんだまま、闇を従え微笑んだ。 「何を言ってるの、秋。私よ。なみよ」 「違う。君はなみじゃない!」     
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