一、

21/30
前へ
/205ページ
次へ
 再び考え込むように沈黙しても、康助は辛抱強く待った。 「なみがあそこにいるのは、・・・守ってるからなんだ」  慎重に言葉を選ぶようにしながら、長い睫に縁取られた瞳が康助に向けられる。 「なみの隣に、すごく立派な木があっただろ?」 「ああ。あの白い木のことだろ?」  康助の返事を聞いて、高柳の表情が複雑そうに崩れる。 「白い、か・・・。やっぱりお前にもそう見えるんだ」 「え・・・?」  康助には言葉の意味が分からなかった。が、高柳はそれについての説明はせず、目線だけでブラインドの向こうを示した。この部屋からもあの森が見える。向かいの家の屋根の上から覗いている。高柳はなみのいる森を見つめ、大切な呪文のように同じ言葉を繰り返した。 「なみは、あの木を、あの木に宿る魂を守ってる」  そうして、にわかには信じ難いとても不思議な話をしてくれた。  彼女――と、もしそう呼んでかまわないのなら、あの木の名前は『ニーニャ』。木に宿る魂ということだから、いわゆる精霊みたいなものだろうか。  ニーニャは、あの場所でずっと大切な人を待っているのだと言う。     
/205ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加