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一、
十月五日(日曜日)
(・・・嘘だろ?)
自転車はたいしたスピードが出ていなくて、さしたる衝撃もなく止まった。ただ無意識に思い切り握り締めてしまった為に、少し錆び付いていたブレーキはキキィ・・・ッと、ひどく耳障りな甲高い音を立てた。
康助の前に立ちはだるのは白い大きな看板。そこに書かれた「立入禁止」の赤い文字。それより何よりその背後に広がった光景を見つめて、康助はサドルに跨がったまま半ば呆然としていた。
看板の向こうに広がるのは――広がっている筈だったのは、深い緑のパノラマ。公園というよりは、住宅地の真ん中に取り残された小さな森。
それが・・・どうしたことか、消えかけていた。
森を囲うように左右にぐるりと伸びる鉄条網の低い柵。掘り起こされ乾いた土の上には、康助の愛車と同じブルーのショベルが一台無造作に放置されている。近くには資材らしい鉄骨も乱雑に散らばっていて、住処を奪われ倒された木々が数本、一緒になって横たわっている。
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