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(話もあらかた終ったし、そろそろ、お会計するかのう)
要は晴明の言葉で席を立った。
「行ってらしゃいませ、ご主人様。冥途の土産にお菓子のプレゼントです。お持ちください」
冥途がにっこりと笑って、唐草模様の風呂敷づつみを手渡してくれた。
古風過ぎる。高齢者は一発でやられそうな粋なサービスである。
「プレゼント、嬉しい。かなめちん、波奈がもらっとくね」
月読波奈はプレゼントを両手いっぱいに抱えてご満悦である。
神沢優も無言でついてきている。
ザザッ!
要が店を出ようとした瞬間、女装カメラ小僧やオタクのコスプレーヤーが一斉に立ち上がり、会計に向かった。それはまるで鉄の規律で鍛えられた軍隊のような統率であった。
外に出ると空は晴れていて、アキバは歩行者天国になっていた。
この世界では3月1日から3日まで女の子の祝日となっていて、それに連動して数年前から『女だらけのコミックマーケット』が開催されていると波奈ちゃんが教えてくれた。
東日本の大震災や父親の安東龍一郎の死の謎を知って、安東要の心は空のように晴れやかではなかった。
だが、何か自分の心境が徐々に変化しているように思えた。
それはかつてへタレでダメダメだった安東要にとってはいい変化の兆しであるのは間違いなかった。
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