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悠が、奏が昼寝している可能性を考慮して外出先からそろりと帰宅すると、リビングにはでたらめなピアノの音が響き渡っていた。見るまでもなく、それが奏の演奏だとわかる。
「おかえり、悠」
奏を膝に乗せてピアノの前に座っていた本郷が振り返り、それに続いて奏が本郷の膝の上で「あい!」と両手をブンブン振った。最近になって奏が覚えた、「おかえり」の挨拶だ。
「奏、すっかりピアノ気に入ってんな」
「楽しんでくれてるなら、俺としては最高に嬉しいよ」
ようやく伝い歩きが出来るようになった奏は、本郷が毎日弾いているピアノに興味津々で、最近では本郷も毎日奏にピアノを触らせてやるようになっていた。
「奏、『ド』はここだよ」
「おー!」
「凄い……! 聞いた、悠!? 奏が今『ド』って言った! もう一回、ここが『ド』」
「おー! おー!」
「……どうしよう、ウチの子天才だ……」
感動で泣きそうな声を零して、本郷が愛おしげに奏の身体を抱き上げる。
本郷の親馬鹿っぷりは相変わらずで、帰りに寄って来たスーパーの袋をキッチンカウンターに下ろして、悠は思わず苦笑する。一万歩くらい譲って『ド』に聞こえなくもない、というのは、口には出さないことにした。
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