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「それなら迎えは頼めないか……。もう時間も深夜だし、今日は病院に一泊して帰る?」
「いや……受付でタクシー呼んで貰って帰ります……」
言いながら、幾分マシになってはいても、完全に怠さや火照りは取れていない身体をどうにか起こして、悠は枕元の荷物を引き寄せた。
「住所は隣町みたいだけど、こんな時間に一人で大丈夫なの?」
「……大丈夫っす」
悠の身を案じてくれる月村の厚意は有難かったが、今は一刻も早く自宅まで逃げ帰りたかった。
月村はまだ何か言いたげだったが、既に診察台から下りている頑なな悠をこれ以上引き留めるのは諦めたのか、軽く肩を竦めると、悠が通りやすいように診察室の扉を開けてくれた。
「会計窓口は閉まってるから、受付で会計済ませて」
「わかりました。……いきなり来て、スイマセン。世話になりました」
「気にしなくていいよ。また二週間後に待ってるから。……あんまり、無理しないようにね」
診察室の入り口で見送ってくれた月村に軽く頭を下げ、悠は重い足を引き摺るようにして受付まで辿り着くと、カウンター越しに事務員へ声を掛けた。
「あの……タクシー、呼んで貰っていいっすか」
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