最終話

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 奏の成長は産後も至って順調で、日に日にスクスクと元気に育ってくれている。今では、本当に三人分のエネルギーを蓄えて生まれてきたのではと思うほど小さな怪獣と化していて、日々悠と本郷を奮闘させてくれていた。 「施設長、元気だった?」  買ってきた食材を冷蔵庫に詰め込む悠へ、奏をラグの上に下ろしてやりながら本郷が問い掛けてくる。  本郷と同棲を始めて間もない頃、悠は施設長に宛てて手紙を送った。  黙って飛び出してしまったこと、ずっと連絡出来ずにいたことへの謝罪と、自分は元気で居ることをその中で伝えると、数日してすぐに返事が返ってきた。  届いた返事には、懐かしい施設長の文字で、『いつでも顔を見せに来て頂戴ね』と書かれていて、悠は奏が生まれた後、本郷と共に三人で施設を訪れた。  出迎えてくれた施設長は悠が居た頃に比べると随分髪が白っぽくなってはいたが、生まれて間もない奏を見て、まるで孫が生まれたようだと泣いて喜んでくれた。同時に、「出産祝いよ」と施設長が悠に渡してくれたのは、悠が施設を出て行ったあの日、置いて行った僅かばかりのバイト代だった。  悠が「施設の為に使って欲しい」と言っても施設長は「子供からそんなものは受け取れない」と頑として受け取ってくれず、それならばと、本郷がオフの日は、時折ボランティアとして施設を手伝わせて欲しいと申し出た。     
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