第一話

23/29
前へ
/275ページ
次へ
「……これ……俺の腹の中、なんですか……?」  呆然と問い掛ける悠に、医師は「そうですよ」と笑う。  悠の体内で確かに小さな命が息づいているのに、悠はそれを喜んでいいのかわからなかった。それが医師にも伝わったのか、エコーの機械を片付けて、医師が悠に向き直った。 「……確か、まだ高校生ですよね? 出産するとなると、当然このまま学校生活を送るのは難しいでしょうから、相手の方とよく相談して、決めてください。中絶するとなると、同意書も必要ですから」 「中絶……」 「あなたの年齢を考えると、産まないという選択も必要ですよ。産んだ後、本当にその子を育てていくことが出来るのか、よく考えてください。勿論、それ以前にきちんと避妊することが一番大事ですけどね」  発情期に流されて、本郷との行為が命を授かることに繋がるということを考えていなかった悠の胸に、医師の言葉が深く刺さった。  ……本郷は、ちゃんと理解していたんだろうか?  仮に理解していたとしても、ピアニストとして将来有望な本郷が、出自もわからない悠との間に子供を作ったりすれば、それは本郷にとって足枷にしかならないんじゃないだろうか。     
/275ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7306人が本棚に入れています
本棚に追加