第一話

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 単に自分の血を引くαを産ませたかったなら、本郷にはもっと見合った相手が幾らでも居るはずだ。  だとしたら、悠との行為はやはり単なる気まぐれで、悠が例え妊娠しようが、そんなことは本郷にとってはどうでも良かったんだろうか。  悠だって別に本郷に好意を抱いていたわけでもなければ、ましてや本郷との子供が欲しいなんて考えたこともなかったのに、どうでも良かったのかと思うと胸の奥が重苦しく痛んだ。  悠の中に宿った命は、そんなことなど知らずに、静かに今も鼓動を刻んでいるのに────  どう考えても、妊娠したことを隠したまま学校生活を送ることは不可能だし、中絶することを選んでも基本的には同意書に相手のサインが必要だと医師から説明を受け、悠は散々悩んだ結果、二学期の始業式の早朝に登校し、本郷の机の中に一枚のメモを忍ばせた。  いつも登校してくればすぐに他の生徒に囲まれてしまう本郷を、目立たないように呼び出す術が、それしか思い浮かばなかったからだ。     
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