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何度も口を開きかけては視線を落としたり、項を擦ったりと落ち着かない悠に、本郷はそこでやっと口元の笑みを引っ込めて真顔になった。
「……御影がわざわざ俺を呼び出すなんて、ただ事じゃないのは確かだよね。何があったの」
本郷の優しい口調に、どうしても悠の中で淡い期待が生まれてしまう。
無意識に片手を腹に宛がって、悠は躊躇った末、静かに口を開いた。
「……俺、妊娠してんだってさ。夏休みに、具合悪くて病院行ったら、医者に言われた」
言い終えてからチラリと本郷の顔を窺い見ると、さすがの本郷もこの報告は予想外だったのか、驚いたように目を見開いていた。
「……妊娠?」
「今、十週目らしい。いきなり言われても、未だに実感湧かねぇわ」
唖然とした本郷の呟きに、やはり望まない妊娠だったと言われているようで、悠は渇いた声で取り繕うように笑って見せた。
(……やっぱ、言うんじゃなかった)
顔に貼りつけた笑顔の裏で、悠は激しく後悔する。
本郷にこんな顔をさせるなら、最初から黙って一人で決断すれば良かったのだ。
考えてみれば、悠だけならともかく、本郷だってまだ学生なのだから、病院でも言われたように、この先すんなり子育てなんて出来るワケがない。
今更本郷を呼び出したことを悔やむ悠に、本郷が止めを刺した。
「それ……ホントに俺の子?」
「……は?」
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