第二話

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 悠がプロダクションに入った当初、悠に煙草を勧めてきた先輩は、Ω同士ということもあってか、事務所内では唯一悠に話しかけてくれる存在だったのだが、そんな彼も丁度今の悠の年齢になったとき、ある日突然事務所を辞めたことを聞かされて愕然としたのを覚えている。  せめて挨拶くらいはしたかったが、彼がどういう事情で事務所を辞めたのかも悠には聞かされなかったし、この業界を去るということは、こちら側の人間とは一切縁を切りたいものなのかも知れないと、漠然と思った。  恐らく悠も、辞めるとしても男優仲間にはきっと告げることはしない。もっとも、悠の場合はかつての先輩のように話をする同僚なんて、一人も居ないのだが。  けれど、もしこの業界から退いたとしたら、今の悠に残された仕事なんて、一体何があるのだろうか。逃げ込むようにこの業界に飛び込んだが、結局ズルズルと続けている内に、いつしか悠にはもうこの業界に縋りつくくらいしか、残された道もなくなっているような気がする。  喉が渇いていたので水が飲みたかったが、正直取りに行くのも億劫なほど身体が重い。こういうとき、『ひとりぼっち』ということが思いの外堪えるのだと、昨日初対面の幼い子供に言われた言葉を思い出す。  久しぶりに高校時代の夢を見た所為もあって、なかなか布団から起き上がる気になれなかった悠の枕元で、スマホのメッセージ着信音が響いた。 『立花:御影、おはよう。昨日はありがとう』     
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